05.花に埋もれて夢を見たい



 「涼太くーん!!」

 キセキの世代達で集まってストバスをする約束の待ち合わせ場所へと赴くと、そう大声で叫んだ幼い少女がオレ目掛けて猪突猛進してくる。そんでもって思いきりオレに飛びついてきた少女を何とか抱き止めることに成功した。また少し見ないうちに大きくなった気がする。

 「ら、蘭ちゃん・・・相変わらず元気いっぱいっスね・・・」
 「涼太あいたかった!緑間おじちゃんばっかでつまんなかったよ!」
 「そうスか・・・つか呼び捨て?」

 赤司っちの双子の娘である蘭ちゃんは、本当に橙星っちに瓜二つである。彼女をそのまま小さくしたような、そんな感じ。緑間っちもさぞお気に入りなのだろうと思った。

 「蘭ちゃん、相変わらずきーちゃんが大好きなんだね・・・」
 「うん、だってわたし大きくなったら涼太とけっこんするから!」
 「黄瀬モテモテじゃねーか、良かったな」
 「あはは・・・結婚って・・・蘭ちゃんが大人になった頃オレはもうおじちゃんっスよ?」
 「かんけいないよ、わたしには涼太だけだから!」
 「・・・・・・」

 僅かまだ3・4歳の子供がいうセリフなのだろうか。
 これがあの赤司っちの娘だというのだから本当笑える。

 「やあ、久しぶりだね」

 蘭ちゃんに続き、赤司っちとその腰に隠れている小さな赤髪の男の子がやってきて、それを見た黒子っちと桃っちが嬉々として歩み寄る。赤司っちはいつもと変わらず涼しい表情をしていて、感情がよく読めなかった。

 「お久しぶりです、赤司君」
 「赤司くん来てくれてありがとう!元気そうで安心したよ!」
 「あぁ、誘ってくれてありがとう。子供達まで一緒にすまない」
 「いえ、蘭さんと蓮君にも会えて嬉しいです」

 そう黒子っちが赤司っちの後ろに隠れている蓮君にかがんで顔を覗き込む。赤司っちに瓜二つなその少年は恥ずかしがり屋なのか咄嗟に赤司っちのシャツの裾を引っ張って顔を隠した。ませている蘭ちゃんとは違い、蓮君は年相応な反応で可愛らしく感じる。

 すると「みんな久しぶりー」と紫原っちが相変わらずポテチの袋を片手にやってきた。

 「むっくん久しぶり!」
 「久しぶりー。・・・赤ちんも元気そうで良かったー」
 「お前もな、紫原」
 「あ、蓮も今日はいるんだねーはい、うまい棒あげるー」

 赤司っちの後ろに隠れていた蓮くんに、紫原っちはうまい棒を差し出すと、蓮くんは瞬時に目を輝かせて嬉しそうにそれを受け取った。
 「これで全員っスかね」そう言ったオレに紫原っちはキョロキョロと辺りを見回す。

 「あれー?今日みどちん来ねーのー?」
 「紫原君、LINE見てないんですか?今日は用事ができたみたいで来れなくなったそうです」
 「えーそうなのー?なんか最近みどちん付き合い悪いよねー」
 「そーっスねぇ」

 どうやら紫原っちもオレらと同じで最近付き合いの悪い緑間っちに対して不満を抱いているようだ。
 すると赤司っちが宥めるように言った。

 「無理もないだろう。アイツは今交際している相手と同棲しているからね」
 「「「え!?」」」

 赤司っちの言葉に、オレと青峰っちと紫原っちの3人の声が綺麗にハモった。声には出していないが黒子っちと桃っちも驚いているようだった。一瞬静まる空気に、いち早く気を取り直した黒子っちが口を開く。

 「・・・じゃぁこの間見かけた女性は緑間君の恋人だったんですね」
 「うーん、そうなのかなぁ・・・私には少し違うように見えたんだけど・・・」
 「何だ黒子、桃井。緑間の相手の女性に会ったことがあるのかい?」

 気になったのか、珍しく突っ込んできた赤司っちに黒子っちと桃っちは話すべきなのかどうか悩んでいる様子であった。そんな2人を他所に、青峰っちが口を挟んでしまったことによって事態は一変する。

 「緑間の女が橙星に似てたんだとよ」

 それを聞いてその場にいた全員が沈黙した。もちろん双子を除いて。
 空気の読めない青峰っちに、桃っちは「だいちゃんのバカ!」と言うのが聞こえた。

 「んだよ・・・急に静かになって。オレなんかやべーこと言ったか?」
 「はぁ・・・青峰君空気読めなさすぎです」
 「あ?何がだよテツ。さっきお前らが言ったことを赤司に言っただけじゃねーか」
 「もういいから黙っててください」
 「んだと!?」
 「あー青峰っち落ち着いて!」

 黒子っちに向かって行く青峰っちの前に立ちはだかり彼を宥める。

 「まぁ緑間っちの彼女の話は置いといて!そろそろみんなでバスケしねーっスか!?」
 「いや、待て」

 重くなった空気の中、明るく提案したオレに赤司っちの鋭い声色が全員の動きを止める。
 俯く赤司っちに全員が視線を送った。

 「黒子、桃井。よければその話、詳しく聞かせてくれないか?」





 05.花に埋もれて夢を見たい





 雫と付き合い始めた頃から、オレは彼女と結婚することになるだろうと、そんな約束も何も保証もない先のことを漠然と考えていた。



 部活動が終わった後。2年に上がり早くも虹村さんに主将を任せられたオレは次の全中に向けて練習メニューを監督と確認していた。時計の針はもうとっくに20時を回っている。主将になってからは、大体この時間までは学校に居残ることが多くなった。
 打ち合わせを終え、練習着のままだったオレは着替えるため部室へと足を運ぶ。電気もついていない部室に誰もいないだろうと思っていたオレはガチャリと扉を開けるといきなり抱き着かれ、完全に油断していて思わず身体をビクつかせた。

 「・・・雫?」

 それは雫であった。
 まだ残っていたのか。ギュッとオレに抱き着いたまま顔を練習着に押し付けて、何の反応もしない彼女にオレは何かあったのだろうと察する。
 抱き返す前に後頭部をポンポンと軽く撫でてやり「どうしたんだい」とあやすように再度声をかけると、ようやく彼女は顔を上げてくれた。

 「・・・さっき、真ちゃんに告白された・・・」

 そう小さく呟いた彼女に、オレは「そうか」と答えることしかできなかった。何故ならそれは彼女の瞳が僅かに揺らいでいたからだ。

 「・・・小さい頃からずっと、好きだったって・・・」
 「うん・・・」
 「赤司のモノになるなって・・・」
 「そうか・・・」

 緑間に彼女に気持ちを伝えても構わないと言ったのは他でもない自分だ。それは彼女に好かれている自信があったからではなく、ずっとそばにいた緑間から彼女を奪ってしまったことへの罪悪感があったからだった。

 それで雫が緑間を選んでも、仕方がないと思っていた。

 だが、緑間のことだからオレに遠慮して気持ちを伝えることはしないだろうと読んでいたのが、どうやら彼はオレが思っていた以上に素直な奴らしい。少しそれに対して嬉しく思う自分もいた。何とも矛盾した感情だ。

 「雫は・・・どうしたいんだ?」
 「どうしたいって・・・?」
 「オレと別れて、緑間のところへ戻るかい?」

 そう尋ねたオレに、雫はショックを受けたように目を見開く。
 抱き着いていた彼女が離れて、温もりが失せていくことに少し寂しく感じた。

 「・・・・・・」
 「・・・オレに遠慮する必要はないよ」
 「・・・してない、別れるはずないじゃない・・・」
 「!」
 「何でそんなこと言うの・・・?征十郎は私に真ちゃんのところへ行ってほしいの?私が好きなのは征十郎だけなのに・・・」
 「・・・雫、」
 「・・・確かに真ちゃんに好きって言われてビックリしてどうしていいかわからなくなったけど・・・征十郎と別れるなんて考えられないよ」

 そう訴えた彼女の瞳には、先ほど垣間見た揺らぎは消え去っていた。
 真っすぐ射貫くように見つめてくるその瞳に、胸がギュッと締め付けられる。そして安堵した。彼女は緑間じゃなく、オレを選んでくれたのだと。

 見つめる彼女の背中に手を回し、そっと抱き寄せる。

 「・・・すまない。お前と緑間の過ごしてきた時間に比べたら、オレとの時間は僅かなものだから緑間を選んでも仕方がないと何処かで考えていたんだ」
 「・・・・・・」
 「だが・・・仕方がないなんて考えるのはもうやめる」
 「征十郎・・・」
 「お前を誰にも渡したくない」

 それだけ言うと、少し荒々しく彼女の口を塞いだ。
 一瞬びくりと身体を揺らすもすぐに応えてくれる雫に、背中に回した腕の力を強くする。


 ようやく、本当に彼女を手に入れたような感覚に陥った。




「緑間の女が橙星に似てたんだとよ」


 そう言った青峰の言葉を聞いて、オレは彼女の死にはやはり緑間が関係しているのではないかと気がしてならなくなった。
 緑間は、オレやキセキの世代みんなに何かを隠している。そう思った。




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