日本有数の名家に生まれ落ちた自分は、父から常に勝利と完璧を求められて育った。
日々父から与えられる厳しい教育。
それを卒無く熟し、期待通りの結果を返す。
物心がついた頃からそうだった。
だから自分から有無を訴える考えもなく、それがオレにとっての"普通"であった。
01.出逢い
小学二年生の夏。
俗に言うボンボンが通う学校の後は、毎日のように塾へ通っていた。雨の日は危険だからと家に雇用の教師が出向き、そうでない日はまるで学校の校舎のように立派な建物の塾へと通う日々。
いつものように塾が終わり、その入口で迎えの車を待っていた時。
目の前にある小さな公園でダンダンッとボールを地面に叩きつける音が響いてきた。
下げた顔をふと上げると、ちょうどバスケットボールをゴールへと放ってはシュートを決める少女の姿が視界に写った。
「(・・・きれい、)」
初めて見るそのフォームに、オレの目にはとても魅力に写っては感情を高揚させた。
自分と同い年くらいの少女は、まだ覚束無い足取りだが宙に放つそのボールは綺麗にゴールへと吸い込まれていく。拭う汗が光に反射してキラキラしていた。
この日をきっかけに、塾が終わった後公園に少女がいないかと何処か期待する毎日を繰り返す。
その期待に応えるかのように、少女は同じ時間帯に公園に現れてはバスケットをしていた。
声などかけれるわけもなく、迎えの車が来るまでの短い時間の中でそんな少女を眺めるだけで満足してる自分がいた。
だがそんな日々もすぐ終わりを迎える。
ある日、晴れていた空が突如泣き出したかのように雨が降り出し、バスケをしていた少女は一瞬でずぶ濡れ。バシャバシャと水溜まりを踏みながら、オレがいつも迎えを待っている塾の入口へと雨宿りに来た少女に緊張を覚えた。平然を装うも、ボールを地に置いて濡れた髪に触れる少女から視線を離せなかった。そんな視線に気づいた少女は振り向いてオレを視界に写す。澄んだ綺麗な瞳だった。
「あ、こんにちわぁ」
「・・・こんにちは」
「なにしてるの?あなたも雨宿り?」
「ううん、迎えを待ってるだけ」
「そうなんだ〜」
緊張で握りしめた拳が汗ばむ。
雨で濡れたバスケットボールを再び手にしては大事そうにタオルで拭う少女。
「バスケ、すきなの?」
「うん、だいすき!あなたはやったことある?」
「やったことない」
「そうなんだ、すっごいたのしいよ!」
そう笑顔で返してきた少女はとてもキラキラしていた。好きなことがあって、夢中になれることがあって羨ましいと感じた。オレにはそんなものがなかったから。
2人の間に雨の音だけが響く。
ぼーっと空を見上げる少女に、オレは鞄から折りたたみ傘を取り出してはそれを差し出した。
「これ、使って」
「えっ、だいじょうぶだよ。止むまでまつから!」
「ぬれたままでいるとカゼを引いてしまうよ。いつ止むかわからないし、オレは迎えがくるから傘はいらない。だから使ってくれていいよ」
差し出した折りたたみ傘をおずおずと受け取っては「ありがとう!」そう微笑んだ少女が何故か母さんの笑った表情と重なった。
「名前、きいてもいいかな」
他人に興味を持たなかったオレが初めて自分から少女のことを知りたいと思ったこの瞬間。
「白鳥奏!わたしもあなたの名前しりたい!」
「赤司征十郎です。よろしく白鳥さん」
そう微笑めば、パアっと表情を明るくして「せーじゅうろうくん、よろしくね」と汗ばんだ右手を両手で包まれた。
これがオレ達の始まり。