34.中毒



 無事に学年末テストも終え、冬休みに突入しても帝光中バスケ部に休日はほぼなかった。徐々に近づいてくる私にとって12月の2大イベント。
それは。


「赤司くんの誕生日とクリスマスプレゼント何がいいかって?」
「うん・・・全く思い浮かばなくって・・・!」

 部活の休憩時間。
 冬休みに入っても練習は午前と午後両方あり、私はさつきちゃんと二人で体育館のステージ上で昼食を摂っていた。

 征ちゃんの誕生日は12月20日。
 その4日後にはクリスマスがある。
 征ちゃんと今まで一緒にいた中でも当然何度もその2大イベントは訪れてきていた。だが今までは特別にお祝いをしたことがない。何故ならお金に余裕がなくお小遣いも貰えていない私を知っている征ちゃんが気を使ってくれて「何もしなくていいよ」と釘を打たれていたからだ。

 でも晴れてようやく恋人関係になったのだし、お小遣いを貰っていなくても私には両親の保険やら財産貯金やらで銀行の中にお金はあるにはあるのだ。

「んー、と言われても私今まで彼氏いたことないし、いいアドバイスできないけどやっぱりバスケ関連の物が嬉しいんじゃないかな?」
「例えば?」
「スポーツタオルとか?」
「なるほど!」
「あとは、バッシュとか?赤司くんの愛用してるメーカーと足のサイズなら私わかるよ」
「流石情報網半端ない」
「せっかくだし使ってくれるものが嬉しくない?それかお揃いのストラップとか」
「それいいかも!ストラップ!」

 せっかく携帯を征ちゃんからご褒美で貰ったのだ。
 お揃いのストラップなんて、憧れてしまう。
 バッシュも捨てがたく、それなら誕生日にバッシュをプレゼントしクリスマスにお揃いのストラップをプレゼントでもいいかもしれない。

「決めた!バッシュとお揃いのストラップにする!」
「いいと思うよ!じゃぁ赤司くんが使ってるメーカーとサイズは後で紙に書いて渡すね」
「ありがとうさつきちゃん!」

 持つべきものはやはりさつきちゃんである。
 だが部活が忙しく、なかなか買い物に行く時間がなかった。どんどん日を跨ぎ征ちゃんの誕生日が間近になった頃。ラッキーなことに体育館の整備が途中入り午後練が休みの日が訪れた。その日私は今日こそ買い物に行きプレゼントを調達しようと予定を立てていたが、一人では心細いためさつきちゃんに付いてきてもらえないかと声をかけるも。

「ごめん奏ちゃん!今日はだいちゃんの予定に付き合わなくっちゃいけなくって・・・一緒に行けない。本当にごめんね!」

 青峰くんとのデートを邪魔できるはずもなく次に、みっちゃんとあっちゃんに声をかけるも。

「奏ちゃんごめんね、私この後習い事があるんだ」
「私も家の手伝いをしなくちゃいけなくって・・・ごめんね」

 完敗だった。
 肩を落としとぼとぼと部室を後にすると、体育館から戻ってきた征ちゃんと丁度鉢合わせる。

「奏、帰るのかい」
「あっ・・・うん」
「オレももう着替えるだけだから少し待っていてくれないか」
「あ、えっと、今日一緒に帰れないの。ごめん征ちゃん」
「・・・・・・」

 何故?と彼の顔に書いてあり、慌てて私は付け加える。

「ちょっと買いたい物があって・・・!」
「それならオレも、」
「征ちゃんはダメなの!」

 言葉を遮って少し強めに返した私に、しゅんとする征ちゃんを見て罪悪感が湧いた。
 私だって本当はこのまま征ちゃんと帰りたい。この滅多にない午後練が休みの日だ。征ちゃんと帰るだけじゃなく寄り道するなり家に行くなりする時間は当然あって、もしかしたらウフンな展開があるかもしれない。そう考えると買い物はまた後日でもいいかも、なんて気持ちが湧いてくる。だがなんとかその邪念を振り払って私は征ちゃんに背中を向ける。

「帰ったら電話するね征ちゃん!」
「あぁ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・奏?」

 背を向けるもなかなか歩き出さない私に不思議に思った征ちゃんが名前を呼んでくる。
 私も大概だと思う。すっかり征ちゃんに依存してしまっている。

「やっぱり校門まで一緒に帰ろう征ちゃん」
「・・・ふふ、わかった。少し待っていてくれ」

 制服に着替え終わった征ちゃんと校門まで並んで帰り、その後もお別れするのを渋った私に優しい征ちゃんは結局駅前のショッピングモール前まで付いてきてくれた。

「征ちゃんごめん!結局ここまで一緒に来てくれて・・・」
「構わないよ。買い物一人でしたいのなら、オレはこのまま外で待っていようか」
「ううん、大丈夫だよ!征ちゃんだって忙しいんだし・・・こういう時こそゆっくり身体休めて。私の買い物いつ終わるかわからないし」
「そうか、わかった」

 踵を返し私に背を向けた征ちゃんに私は無意識にブレザーの裾を掴んでしまい、征ちゃんが歩き出すのを阻んでしまった。
 そんな私の行動に困ったように彼は振り向く。

「・・・奏」
「あ、ごめん。無意識に・・・!」
「・・・・・・」
「ダメだなぁ私。完全に征ちゃん中毒!ちょっとでも離れたくないって思っちゃう」
「・・・・・・おいで」

 裾を掴んでいた私の手を引いた征ちゃんの胸の中にすっぽり収められる。平日といえ周りに人がチラつく公の場ということもあり、一気に顔に熱が集中した。優しく抱き締めながら耳元で「オレも同じだよ」と小さく囁いた彼に頭がクラクラした。
 バッと顔を上げて彼の唇に迫ろうとするも、いち早く私の行動に気付いた征ちゃんの手に口元を覆われてそれは叶わずに終わる。

「キスはダメだ」
「ちぇっ」
「ほら、買い物行っておいで」
「はぁい」

 渋々と離れる私に征ちゃんは優しく微笑んで手を振る。ショッピングモールへとぼとぼ歩き出す私は途中何度も征ちゃんの方を振り返った。その都度微笑んで見送ってくれる征ちゃんに胸が締め付けられて、私は立ち止まってはそのまま方向転換し征ちゃんの方へ引き返してしまう。

「征ちゃん〜!」
「はぁ・・・・・・奏、いい加減このくだりはいいぞ。先に進まないだろう」
「だって・・・」
「一生の別れではないだろう。オレがいることで行けないのならオレから帰るよ」
「あ・・・征ちゃん・・・!」

 そう言うと征ちゃんは一度もこちらを振り返らずにスタスタと立ち去ってしまった。
 周りの目も気にせず膝を地につけて征ちゃんに向かって手を伸ばした。



34.中毒



 征ちゃんと別れ、ショッピングモールに入るなりスポーツ店と雑貨屋さんがどこの階にあるのか案内表を見上げて探している時。

「白鳥っちじゃん!」

 そう明るい声が背後から聞こえ振り向くと。

「あ、黄瀬くん!」

 そこには私服の黄瀬くんがいた。
 片手にはタピオカが入った飲み物を持っている。

「すげー偶然!あれ、今日部活は?」
「今日は午後練がお休みなの。黄瀬くんは買い物?」
「近場で撮影があったんスよ。その帰りっス!ここに入ってるタピオカの店超ウマイんスよ!あ、飲む?」
「!?」

 ごく自然な流れで黄瀬くんは片手に持っていたストローの刺さったタピオカを私の口元に押しつけてきて、有無を言う暇もないまま思わずそれを口に含んでしまった。これは間接キスになるのでは、と冷や汗が流れるも爛々と目を輝かせて早く飲んでと顔で訴えてくる黄瀬くんに仕方なくそのままタピオカを吸った。

「!おいしい」
「でしょ!」

 にこやかに笑う彼に、黄瀬くんにとってはこういう間接キスとか普通のことであって日常茶飯事なのだろうなと思った。そんな彼と違って一々大きく反応する私は少し子供過ぎるのかもしれない。それでもやはり征ちゃんへ申し訳ない気持ちが湧く。

「白鳥っちは何?買い物っスか?」
「うん。彼氏の誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント買いに」
「へ〜いいっスね!じゃぁオレもお供していいっスか?」
「いいけどただスポーツ店と雑貨屋さんに行くだけだよ」
「問題ないっス!面白そうだし」

 改めて彼の私服を眺めてみると、征ちゃんとは違う意味でオシャレでかっこいいと思った。中学生には見えないくらい私服の黄瀬くんは更に大人っぽく見える。身長も高いし高校生に間違われても仕方がない。
 そんな黄瀬くんの隣を歩く制服姿の私はきっと周りからは子供っぽく映ることだろう。

 スポーツ店に行き、さつきちゃんから教えてもらった征ちゃんの愛用しているメーカーとサイズの合ったバッシュを購入した。薄水色のラインが入ったシンプルなバッシュ。決して安くはない。だが、少しでも征ちゃんの練習や試合の役に立てればいいなと考えならラッピングされたそれを大事に抱えた。

 次に雑貨屋さん。
 お揃いのストラップを探すも何がいいのか種類がありすぎて迷ってしまう。

「ストラップっスか?お揃いにするの?」
「うん、携帯につけれたらって思って」
「え!?白鳥っちいつの間に携帯買ったんスか!?」
「あ、うん、実はちょっと前に・・・」

 彼氏に貰った上支払いまでして貰ってるとは言えず口ごもる。

「じゃぁ番号とメアド交換しよ!」
「うん、もちろん」

 そして私と黄瀬くんはようやく連絡先を交換した。
 アドレス帳に黄瀬涼太という名前が追加される。

「ストラップだけどバスケ部なんだし、やっぱりバスケットボールがついてるヤツがいいんじゃないスか?例えばこれとか」

 そう何処からか持ってきたバスケットボールが付いているシンプルだが可愛らしい色合いのストラップを揺らして見せた彼に、私はそれを受け取る。

「シンプルだけど可愛い!流石黄瀬くんセンスいい!」
「これくらいなら男が付けてても抵抗ないと思うし、結構いいと思う」
「確かに!じゃぁこれにする!」

 黄瀬くんが選んでくれたストラップを二つ購入し、クリスマスプレゼント用にラッピングしてもらった。
 無事それを受け取り、店を出る私とほぼ同時にコスメショップから出てきた黄瀬くんと鉢合わせると彼は手にしていた小さな紙袋を私に差し出してきた。

「これは?」
「オレからの・・・んー、まぁちょっと早いクリスマスプレゼントとでも思って受け取って!」
「え!そんな・・・いいの?貰って」
「もちろん。白鳥っちに似合うと思う。開けて見て」

 言われた通りおずおずと紙袋の封を開ける。
 中を覗くとグロスが入っていた。
 取り出せばよく聞くメーカーの物で、パッケージも可愛い。

「白鳥っちあんまし化粧っ気ないから、彼氏サンと一緒にいる時とかそれ付けていつもと違う感じ出すと喜んでくれると思うっスよ。それ今女子中高生に人気のグロスで雑誌にもよく載ってるヤツだから、これを機にオシャレも楽しんでほしいなって言うオレの余計なお世話付きっスけど!」

 キラキラ光るグロスときらきらしてる黄瀬くんの笑顔。
 純粋に嬉しかった。
 確かにメイクとか、今までしたこともなくリップクリームさえ持っていない私は女子力が圧倒的に足りなさすぎる。征ちゃんがあんなにかっこいいんだ。その隣に並ぶ私ももっと女子力上げて可愛くならないといけない。

「ありがとう黄瀬くん!大事に使うね。私可愛くなれるように頑張ります!」
「うん。まぁ・・・もう十分かわいいけどね」
「え、何?」
「いや何でもないっス。せっかく来たんだしゲーセンでも行ってもうちょっと遊んでいかねースか!?」
「あ、ちょっと待って黄瀬くん!」

 右手を掴まれて走り出す黄瀬くんに、引きずられるようにして私も走る。
 バッシュもストラップも買えたし、これを渡す時は黄瀬くんから貰ったグロスもつけて少しオシャレして征ちゃんにプレゼントしようと考えるとすごくわくわくした。
 そんな黄瀬くんといたところを、征ちゃんに見られていたとも知らずに。




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