冬は後ろめたい



「クリスマスは供に過ごそう」


 そう冨岡先生から誘いを受けたのは丁度一週間前のこと。
 そして今日はその約束のクリスマスである。

 冨岡先生と過ごす初めてのクリスマスだ。
 彼と恋人になるまで山あり谷ありであったが、高校生活最後の年。ようやく晴れて先月恋人関係になることができた。もちろん周りの生徒や先生達には秘密にしている。

 だが恋愛経験ゼロである私は、当然異性とクリスマスを過ごしたこともないし異性にプレゼントを手渡した経験もない。なんたって冨岡先生が初恋の相手だったのだから、仕方のないことだ。そのせいで結局先週からずっとクリスマスプレゼントをどうするか悩みに悩んだが、結局決まらずに用意できないまま今日に至る。

 だが、冨岡先生もいい大人なのだ。クリスマスを供に過ごそうと誘ってくる辺り、きっとそういう展開になるのだろうと考慮して下着だけは恥ずかしくない物を選んできたつもりである。


 放課後。
 冨岡先生からLINEが着ていて開けば「いつもの公園で」と一言あり、それを見ただけで胸がいっぱいになる。今までデートらしいデートはしたことがない。思えば二人でゆっくり過ごすのはこれが初めてかもしれない。

 「なまえ!」そう名前を呼ばれ顔を上げれば教室の入り口に立った梅ちゃんがこちらに手を振って大声を張り上げる。


「今日他校と合コン取り付けたんだけど人数が合わなくって参加してくれない!?あんたどうせ予定ないでしょ」
「梅ちゃんごめん!私今日無理なの!」
「え!?なんでなんで!?もしかして男できたの!?」
「ふふ、なーいしょ!」


 周りに公表できない今の環境がたまにもどかしく思う時もある。
 それでも自分は満足していた。冨岡先生は宇髄先生の次に人気があるし、かっこいいし、こんな私には勿体ない人だけどやっと実った初恋なのだから。
 関係が公表できなくたって、不満はなかった。

 学校を後にする前に、女子トイレに寄り念入りに鏡で身だしなみチェックをしてから冨岡先生との待ち合わせ場所へ向かった。いつも待ち合わせする時に使っている公園へ足を運び、一人ベンチに座って彼が来るのを待つ。暇を持て余していたので、年上の彼氏持ちな世間の女子達は一体何をプレゼントしているのだろうか。気になって携帯で調べてみた。

 そこには無難な物から目を覆いたくなるような内容まで赤裸々に出てきた。そしてプレゼントを用意していない私にも冨岡先生に捧げられるものが一つだけあることを知ってしまい、頭を抱えた。想像しただけで発熱しそうである。

 すると背後からふわりとマフラーを巻かれ思わず肩をビクつかせた。半々柄のマフラーを見ただけで背後に立つ人が誰なのか見なくてもすぐにわかるなまえは、嬉しそうに振り向く。


「冨岡先生!」
「待たせてすまない。寒かっただろう」
「いえ!このマフラーお借りしていいんですか?」
「いい。俺は寒くないから」
「ありがとうございます。ふふ、冨岡先生の匂いがする・・・!」


 巻かれたマフラーに鼻を摺り寄せてくんくんとしてしまった後に我に返る。本人の前で匂いを嗅いでしまった行為に恥ずかしく、失礼に思い「すみません・・・」と謝ると何故かフッと微笑まれた。その表情がまたかっこよくて直視できず目を逸らす。


「行くか」
「あ、はい。あの・・・どちらに行くんですか?」
「俺の家だ」
「・・・!」


 そう何食わぬ顔で言って、私を助手席へとエスコートした後運転席へ腰かけた冨岡先生に思わず固まる。まさか、早速お家コース?そして初めて乗る冨岡先生の車と運転する横顔の先生がとても尊くて、助手席で一人悶えた。

 到着した先生のマンションはセキュリティもバッチリで、見るからに高そうなマンションであった。いざ案内された部屋の中はきちんと整理整頓ができていてとても清潔感のある冨岡先生らしい部屋であった。


「あ、そういえば食べ物とか何も買ってないですよね・・・私買いに行きましょうか!」
「問題ない。俺が待ち合わせ前に買っておいた」


 そう言ってテーブルの上にレストランでテイクアウトした料理を並べていく義勇に、それを見たなまえはわあっと顔を綻ばせる。


「先生すみません・・・私何も用意してなくって・・・」
「気にするな。普段から何もしてやれていない俺も申し訳ないと思ってる」
「そんな、先生は忙しいんだから仕方ないですよ!」
「・・・先生じゃなくて」
「!」
「二人の時は・・・義勇と呼んで欲しい」


 そう群青色の瞳を真っすぐ向けられ、視線が絡んだことにより心臓が煩く動く。「ぎ、義勇さん・・・」言われた通り下の名前で彼を呼べば満足そうに広角を上げた。


「目を閉じろ」
「え、あ、はい!」


 急にそう注文され慌ててぎゅっと瞼を瞑る。
 一体何をされるのだろうか、心臓をバクバクさせながら待機していると義勇の手が微かになまえの首元に触れて擽ったい。「いいぞ」その声に閉じた瞼をゆっくり開け、首元を見やるときらりと光る可愛らしいネックレスが掛かっていた。


「これ・・・!」
「俺からのクリスマスプレゼントだ」
「あ、ありがとうございます・・・!一生大事にします!」
「・・・喜んでもらえたようで良かった」


 微笑む義勇になまえはプレゼントを用意していないことに改めて後悔し、申し訳なく思った。


「義勇さん、ごめんなさい・・・私プレゼント実は何も用意できてなくって・・・」
「別に、大丈夫だ。気にしなくていい」
「でも、その代わりって言ったらあれですけど・・・義勇さんにあげれるもの一つだけあるのでよければ受け取ってもらいたいんですけど・・・!」
「?」
「プレゼントは・・・わ、私自身です!」


 それを聞いて目が点になる義勇。
 沈黙が二人の間に広がる。フリーズしている義勇の様子と気まずさが込み上げてきてなまえは後悔した。
 居たたまれなくなり頭を下げる。


「す、すみません・・・今のはなかったことにしてください・・・」
「・・・いや、なかったことにはしない」
「!」
「ありがとう。だが、悪いが受け取ることはできない」


 そう言った義勇の言葉が胸に刺さる。やっぱりこんなプレゼント嬉しくないよね。先生は大人で、私は子供。先生も大人の女性の方が良いに決まっている。
 「・・・今はまだ、」そう付け加えた義勇に、再び下げた顔を上げた。


「お前が卒業し、教師と生徒の関係がなくなったら・・・そのプレゼントを受け取る」
「え・・・・・・」
「・・・その時は覚悟しておけ」


 思わず呆気にとられフリーズする。
 だがようやく義勇の言葉の意味を理解した途端、急激に顔に熱が集中し両手で覆った。卒業したら、冨岡先生は私を受け取ると言っているのだ。それがどういう意味を指しているのか流石の自分でもわかる。


「その時までにしっかり勉強しておきます・・・!」
「・・・まずは目の前の勉学をしっかり学べ。この前の学期末テスト赤点があっただろう」
「ひっ・・・よくご存じで」


 卒業まであと僅か。
 なまえのプレゼントを義勇が受け取るその日まで、そう遠くはなかった。


20.12.25






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