彼と私の数日間 | ナノ
目的とは何かと既に見失っていて


電気石の洞穴で、入口から少し進んだところのトレーナーから「緑色の髪の青年を見た」と聞いた。

予想通り、ここでまたNの話を聞くことになったわけだけど。

「(ゆっくり…歩いてる…)」

私の歩くスピードが速かったのか、それとも彼が遅いだけなのか。

そのN本人を見つけてしまった。

特に何の変哲もないNは普通に出口へと向かっているようで、なぜかそれを尾行する形で追いかける私。

「(ストーカーか…私は…)」

途中、何度か野生のポケモンと戦ったりしたけれど、とりあえず出口に近付くにつれてNの様子がおかしくなった。

「何あれ…」

考えるそぶりを見せる。

納得したのか、しばらくするとそのまま出口を出て行ってしまった。

「わけ分かんない…」

このままついていけば、Nが何をしたいのか分かるだろうか。

そう思うと、急いで出口を出ようとした。

すると、あと少しのところで砂埃が起こり、野生のモグリューが出てきてしまった。

「うっわ…けほっ…」

思いっきり砂埃を吸うところだった…とヒサギは小さく呟く。

そして戦う気満々のモグリューから逃げるのは無理だろうと判断し、ボールを構えようとすると、抱きしめていたミジュマルが鳴き声をあげた。

どうやらミジュマルも戦う気満々らしい。

「よし、行っておいで! ミジュマル!」

相手がきりさくをしてくる。

「ミジュマル、たきのぼり!」

ダイケンキのアマガサが覚えていたたきのぼりを遺伝したミジュマルも、たきのぼりが使える。

そのおかげで難なくモグリューを倒し、やっと出口を出ると、そこにはもうNの姿は無かった。

「…うん…そうだよね…こんな落ちだって分かってた」

もう、彼と戦った場所はこの先にはない。

チャンピオンロードを抜け、四天王を倒し、出現したプラズマ団の城での戦いまで、Nとは戦わなかった。

「………」

よほど暗い顔をしていたのか、ミジュマルが心配そうにこちらを見る。

「…ごめんね。大丈夫だよ」

トレーナーの私が落ち込んでどうする。

私の目的は、チャンピオンのアデクさんを倒すこと。

これはその為の旅。

「さぁ、次の町に向かおうか」

野生のポケモンを倒しながら。

トレーナーとのバトルをしながら。

何だかまた、周りを見失っている気がした。

前の旅の時と同じ、進むにつれて余裕がなくなる。

「(Nを見かけたから…?)」

もっとシャキッとしなきゃ。

そう思って、バチンッと自分の両頬を叩いた。

頬が真っ赤になったって構わない。

ゆっくり、周りを見渡しながら旅をする。

そして、アデクさんを倒すんだ。


目的とは何かと既に見失っていて

(それに気づかずに旅をする)


2011.10.26

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