その時世界が色付いた
傷ついたポケモンが入っているモンスターボールを抱えて、ポケモンセンターに入った。
ジョーイさんにポケモンを預けている間、別のポケモンを手持ちにして一度ポケモンセンターを出る。
「(まぁ、当たり前だよね)」
ポケモンが弱かったわけではない。完全に私の力不足だった。
ポケモン達の実力を出し切れていなかった。
つまり私は、アデクさんに負けたのだ。
「(四天王までは勝てた…でも、アデクさんのいる部屋で私は…)」
私の頭は、Nしか浮かばなくなった。
そうなったら、目の前のチャンピオンに何も出来なくて。
「馬鹿みたい…」
はあぁ…と溜息をついて前を見ると、そこには見知った人物が立っていて、思わずゆっくり歩いていた足を止めた。
「…N?」
「久しぶり…」
「な、何でNがここに…?」
確かに、チャンピオンを倒すための旅で、何度もNを見かけたって言う情報を耳にして、私自身もNを目撃して、ちゃんと会いたいって何度も思ったけれど。
こんなあっさり出会うなんて、思わないじゃない?
「ボクがあの城から出ていく時に、キミから聞いた言葉が忘れられなくて…」
戻ってきてしまったんだ。
そう言って、苦笑いを浮かべた。
「でも、心の準備が出来てなくて、しばらくずっとこのイッシュを旅していたんだ」
気付いたら、キミと出会った町や、キミとバトルした場所ばかり見ていたけれど。
「(それって…無意識だったってこと…?)」
私もそうだったのかもしれない。
チャンピオンを倒す為、なんて言って、本当はただ、Nと会って話した場所に行きたかっただけ。
よく考えれば、旅なんてしなくても、このチャンピオンロードでポケモンを鍛えることは出来たんだ。
ただ理由が欲しかった。またこの地方を旅する理由が。
そう自覚したら、思ったよりも心が軽くなった。
そして今、Nが目の前にいると言う事実に、やっと正直に喜べる。
「まさかキミがここにいるなんて思わなかったけど」
「ねえ」
会いたかったよ。
会って話をしたかった。
またバトルをしたかった。
今度は純粋に、ただ楽しむだけのバトルを。
でもそれよりも、今伝えたいのは、
「N…す、」
「待って!」
もう一度、私の気持ちを伝えようとした時、Nが慌てて私の声を遮る。
「ご、ごめん…その、今度はボクが、キミに伝えたいんだ」
あの時の返事を。
そして今の気持ちを。
「ヒサギ、好きだよ」
その時世界が色付いた
(白と黒の世界に)
2011.11.12
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