不安な
朝、とても気怠く、とても憂鬱だった。
布団を自分の体から退けて、上半身を起こしてベッドの上に座る。
「(あれは、私を避けてたのかな…)」
ファントムが、私ではなく妹に真っ先に話しかけた事実。
今までは自分に真っ先に話しかけていたから、何となく、嫌な気持ちが襲った。
「(そんなこと考えてても仕方ないか…)」
そう思い、寝間着から私服へと着替えると、トントンと遠慮がちにノックをされた。
「すみません…アザミさん、少しいいですか?」
その声の主は、ロランだった。
どうやら妹が部屋から出てこないらしい。
中にいる気配はあるから、病気か何かだったら大変だと言うことで、起こしてほしいんだとか。
「(あの歳になって朝寝坊…しかもそれをアオイがするなんて珍しい…)」
やがてアオイの部屋に着いて、ノックをして声をかけるも、ロランの言うとおり返事も無いし、動いている気配も無い。
「おかしいわね…」
仕方なく、本当に仕方なくファントムを呼ぶと、彼はあろうことかペタまで連れてきた。
確かに妹を動かすにはペタの声と言葉が一番だけれど、まさかこんなことで連れてくるとは思わなかった。
「起きないの? だったら無理矢理にでも開けさせるよ」
ファントムはそう言うと、後はペタに任せて自分たちはここから去ろう、と小さく言って私とロランの背中を押してきた。
ドアの前に、ペタ一人を残して廊下を進むと、遠くで少し大きな声が聞こえた。きっとペタの声だろう。
「(そう言えば私…ファントムのことで悩んでたんだっけ…)」
今日だって、いくら妹のことがあったとしても、呼びに行けば飛びついてくる勢いなのに。
大人しく、いつも他のチェスの兵隊に向ける態度のようなもので。
「(もう…私のこと、好きじゃないのかな……)」
なんで私はこんなに、不安になっているんだろう。
あんなに鬱陶しいと思っていたのに、好きじゃなくなったなんて嬉しいことのはずなのに。
「(私は好きじゃないけど、好きでいてほしいって思ってるのかな…だとしたら、我儘な女だな、私…)」
私の隣でいつもの笑みを浮かべるファントムは、いつも見ているファントムとどこか違うように見えて、遠くにいるような気がした。
「大丈夫、ペタがいるからアオイはすぐにでも出てくるよ」
「あ…まぁ…うん」
そうよね…とだけ返して、私は黙り込んだ。
不安な追いかけっこ2011.12.14
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