少女は人の感情に恐れる
チェス内ではアオイの腕力に疑問を覚える人間が多かった。
16歳の女の子でありながら、その身体能力と魔力は普通の人間のそれとは違ったのだ。
それにどこか自分たちとは違うにおいがすると、無自覚に感じ取っていたのかもしれない。
アオイ自身も、両親から話を聞いていて自覚していた。
自分は普通の人間ではないと。
「話せば長くなるから、聞きたければ話すけど…」
「ち、ちょっと待ってください…そんな簡単に…」
「私はペタを驚かせることが出来て楽しいけど?」
「そう言う問題じゃないだろ。ファントムは、知っていたんですか?」
「うん。アオイがチェスに入った時、まだ子供だったのに流暢な言葉で教えてくれたよ」
アオイの心拍数は上がり始めている。
自分の正体を告白したことで、どう変わるのか、予想できないから。
そして掌を握り、震えに耐えるように、歯を食いしばった。
「どうしてお母さんがここに来たのか、私は知らない」
もうお母さんはこの世に存在しないから。
「だから私は、お母さんがここに来たARMを探してる」
門番ピエロかもしれない。
いくつも存在するかは分からないけれど。
誰が呼んだのかも、お母さんがここに来た理由も、きっともう知ることは無いけれど。
そう話すアオイに、やはり言葉を失うペタとロラン。
「(早かったかな…でも多分、今を逃すと話すタイミング無いし…)」
いずれは、言おうと思っていたことだった。
三人の様子を窺うアオイ。
「こ、こんなことって…」
小さく呟くロランを見て、アオイは再び口を開く。
「もう両親はいない。世界や人間に恨みはないけれど、私はチェスが好きよ」
穏やかな笑みを浮かべた。
「あ、あとね、私の腕力は異世界人の血が流れてるからとかじゃなくて、ただ単に母親が怪力で遺伝されただけ」
私自身が生まれたのはこのメルヘヴンだからね。
と、いつもの調子で言った。
「ここが、今では私の居場所だって思ってる」
にっこり笑って言うと、アオイはファントムの部屋を出て行った。
用を伝えるのも忘れて。
◆◇◆◇◆◇◆
今宵はウォーゲームの開催を告げる。
ペタのARMによって、それらは全国的に伝えられる。
「再びウォーゲームを始めようではないか!!」
再び、とは6年前にも同じウォーゲームが行われたからである。
6年前、ダンナと言う異世界の人間によりファントムと相撃ちになり、バッボが封印された。
ペタの宣言により、レスターヴァ城内にいる他のチェスの兵隊も大きな声をあげる。
場所と時刻を指定して、宣言を終えるとペタはARMをしまう。
「ペタ、ノリノリだね」
「よしてください…こうしろと言ったのは貴方ですよ…」
「ところで、アオイがいないみたいだけど」
「アオイなら中庭にいたとキャンディスが言ってましたよ」
何か用が? と聞くペタにファントムは少し間をおいて口を開く。
「そうだね、じゃあペタ、アオイに僕が呼んでたって言ってきてくれる?」
「分かりました」
ペタはファントムに一礼してその場を去った。
「あの二人くっつけるのも大変ね…」
キャンディスがやってきてファントムにそう言う。
「結構簡単にくっつくと思ってたんだけどね」
二人の気持ちを知った時から。
「さて、どうなるかな…」
2011.09.06
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