特等席 | ナノ
入り込んだ風に背を押され

「………」

「…………」

「(なにこれ……)」

数分、何も話していない。

グリーンくんは助け舟を出してはくれなかった。

レッドくんはじぃ、と私を見るだけ。

私はと言うと、何を話していいか分からずに黙り込んでしまった。

私から話した方がいいのだろうか。

そもそもどちらから話すと言うのに正解はあるのだろうか。

「あ……」

少しだけ出した声に、グリーンくんとレッドくんは私に目を向ける。

注目されると逆に話し難いのだけれど。

「あの…私…リコリスと言います」

同じクラスになって数ヵ月、今更な自己紹介をした。

クラスメイトの騒がしい話し声が遠のくような気がした。

大きな風がカーテンを揺らす音だけがやけに耳に響く。

「…知ってる」

やっと別の音、と言うか声が耳に届く。

同じクラスになったばかりの時、最初の自己紹介で聞いた以来の声。

「俺も知ってる」

「えっ!?」

「いや、名前くらい知ってるって。俺もレッドもさ」

「あ、そうか…」

私未だに、覚えてない名前が沢山あるのに。

でもよく考えたらレッドくんとグリーンくんの名前は覚えてたなぁ。

去年、別のクラスだったのに噂が私の耳にも入ってきてたからかな。

「て言うか、自己紹介の時にさ、噛んでただろ?」

しかも自分の名前を。

そう言うグリーンくんに、自己紹介の時の自分を思い出した。

一気に顔が熱くなっていく。

「それが印象深かったんだよなー」

「僕は、リコリスさんが去年、飼育委員してたから知ってる」

「え、何で私が飼育委員って…」

「僕も飼育委員だった」

そう言えば、そうだったような気がする。

あれ、何で覚えてないの私。

「へぇー。飼育委員かぁ。確かマリルやマリルリ、ミミロルとかプラスル、マイナンとか飼ってたよな」

「あとポッポとかもね」

「何で飼育委員になったんだ?」

「あ、えっと…ポケモン、好きなの…!」

いつもより、ほんの少し大き目な声で言えた気がする。

「あの、レッドくん。私のこと、さん付けしなくていいよ?」

「でも……」

「いいの。その方が私も、気楽でいられるから」

何だか嬉しくて。

友達とまで行かなくても、仲の良いクラスメイトとしてでも、こうやって話せたことが嬉しくて。

「分かった。僕も、ポケモン好きなんだ」

初めて見た、レッドくんの微笑みに思わずまた顔が熱を帯びた。


入りんだ風に背を押され

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