春の暖かい気温が、冬で冷えた体を融かすようにじわじわと温めていく。穏やかな風がまた心地良くて、昨日遅く寝たわけでも今日早く起きたわけでもないのに欠伸が出てしまった。頭上を見上げれば青空に薄桃色の桜が浮かんでいるように見えて、お花見日和だなあ、と思う。
私の隣にいるのは先日髪を短く切った場所取り役のロキ。彼はとある事情から私の幼馴染みであるルーシィの家でお世話になっている。その事情には薄らと私も関わってはいるけれど、彼がその状況を受け入れてここにいるのは彼自身の判断だ。今となっては申し訳ないと思う。けれど、同時に嬉しくもあった。
そんな風にぼおっとしていたら隣の彼に「寝たら?」と言われてしまった。今寝たら起きられない気もするんだけれど、首がうつらうつらとしてしまう。春眠暁を覚えず、なんて言葉が脳裏に浮かんだ。彼の言葉に甘えて一眠りするとしよう。シートの上にだらしなくも寝転がると彼が自分のコートをかけてくれた。春とはいえ時々風が冷たく感じる。まだお昼前だからそうでもないけれど、夕方になれば芯まで冷やす程に冷え込んでくるだろう。
目を閉じて、風で揺れる木々の音を聞きながら眠りについた。
眠ってしまうと時間が経つのはあっという間で、ロキが声をかけて起こしてくれた。何だか顔が近かったような気がするけれど、大して気にすることでもないだろう。私は深く眠ると起きられないらしいから。同じ体勢で眠っていたのか体が少し硬い気がする。伸びをして全身を伸ばす。
そういえば、今回は何だか懐かしい夢を見た。覚えているなら然程深い眠りでもなかったのだろう。それをロキに言ったら、どんな夢だったのか問われたので、夢の内容を話した。幼い頃に三人でお花見に行こうとした時のことだ。彼は少し驚いたような表情をしたけれど、私が見た夢の話を馬鹿にすることも、興味なさげにすることも無く聞いてくれた。
――ああ、好きだなあ。
心の中がじんわりと温かくなる。借りたコートからロキのにおいがして、包まれているような気がするからかな。
本当は、もう一つ夢を見たのだけれど。この季節に見るのは珍しい。いつもはもっと後――梅雨の時期くらいに見るから黙っていた。
多分きっと、あの時のことを大切に思っているのは私くらいなんだろうけれど、それでも私はずっとそれを大切にしていきたい。彼と出会ったことも、あの時のことも。彼と、そしてルーシィと一緒に過ごした日々は、些細なことでさえ愛おしく感じるから。
ふと見ればルーシィ達が遠くで手を振っていた。漸くお花見が始まる。保冷剤を入れていたからお弁当は大丈夫だろう。今朝作り終わったばかりだし、きちんと粗熱を取ってきたから問題ないはずだ。冷めてしまったおかずは残念だけれど、それもまたお花見の醍醐味だろう。
包まっていたコートをロキに返して、駆け寄ってきたルーシィからお菓子の袋を受け取る。転ばなくてよかった。彼らは靴を脱いで各々自由に座っていく。ルーシィは私の隣だ。いつもの定位置。中学くらいまではその反対側にロキが座っていたんだけれど、今いる場所から動くのが面倒だったのか私の隣から動かない。まあ、今日は他の子もいるし、ルーシィの隣にはナツがいるからいいか。
食べ物を出して、飲み物を入れて、全員が落ち着いたところでロキが乾杯の音頭を取って、お花見の開始となった。
2016.07.15
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