10周年記念 | ナノ
11

私のこの感情は、もう終わるべきなのかもしれない。ずっとそう考えてきた。

高校の最終学年。卒業してしまえば成人するまで一年程度。いつまでも幼い頃に抱いた恋心を背負ったままでは、きっと前に進めない。どれ程の時間、彼を思っていたとしても、この先は諦めの中無駄な足掻きをするだけだ。それならばいっそ、一思いに砕け散ってしまうのも悪くない。



「告白シーズンですな」

そんな馬鹿みたいなことを言う友人は、ここ数週間程度で成立したカップルをチラリと眺めながらコンビニで売っていたお菓子を口に運んだ。

「卒業間近だからね。最後に、って思うんじゃない?」

「卒業式の日に告白する子もいるみたいだし、これでもまだ少ない方じゃないの」

「で、ここ最近のアオイはテンション低いわけだけど、何か理由が?」

全員が私の方を見る。テンションが低い、と言われたが、私としては普段通りにしていたつもりだったのだけど。

「卒業式が嫌い」

「おやまあ」

「最後だから、皆大好きだとか、このクラス最高だとか、記念写真だとか、アルバムの書き込みとか、そう言った風習が嫌い」

「ぼっちかな?」

「事実アオイは中学までぼっちだったわけだけど」

「そう言うわけじゃない。卒業の空気に当てられ、思っても無いことを口走り、その上親しくも無かった人間のアルバムにもふざけたコメントを残す輩の心情が理解できないだけよ」

「否定すればする程、僻みにしか聞こえないのが人間の性質だと思わない?」

「好きに解釈すればいいわ」

あと数週間すれば卒業。式の準備も始まり、練習もしている。卒業を祝われる側が卒業式の練習とはこれいかに。まあ、予め段取りを決めておかないとグダグダになるのは明白だ。かなりの人数が体育館に集合するのだから。

「アオイは告白しないの?」

「は?」

「ほら、高校卒業すれば、年齢で気にすることも無いんじゃないかなーって思って」

「わたしはね、別にいつでも言っていいと思うんだよ? でも二人は世間体があるとか言うし、女子高生は大人に恋をしちゃいけないわけでもないのにねー」

「ほら、クッキーあげるからちょっと黙ってて」

「んぐ……おいしい」

「……そうね、それもいいかもしれない」

「おや……」

「何か心情の変化でもあったのかしらね」



祖父に進路の話をした時、少し驚いた様子を見せた。最近祖父は色々表情が見えてきて、どうにも人間らしく見える。いや、元から人間ではあるのだけど。未だにカフェの仕事に給料は出ていないので、お小遣いを増やそうかと申し出てきた時はただのお祖父ちゃんだった。

こうなったのも仕事を引退して、姉が継いでからだ。姉は仕事もうまくやっているらしい。元々私より人間関係に秀でた人だし、その辺りはあまり驚くことでもないだろう。結婚生活に関しては、旦那の方から文句は来るが、彼も彼で決して離婚する気は無いらしく、あの二人の関係性がいまいち理解していない。

気付けば卒業間近。世間は卒業シーズンを謳っている。同時に、入学シーズンも推しているのだから商売とは大変だ。私もカフェの新作メニューを考えている。春らしい、淡くて暖かいイメージの物が良い。桜はまだ開花していない。先取りするのも悪くは無いだろう。

卒業したら、カフェを辞めるつもりだ。とは言っても、試作品の味見をしてもらう為に頻繁に顔を出すことにはなりそうなのだけど。暫くは新しい環境で手一杯だろう。そう言ったら、「お前に限ってそんなことあるはずないだろう。次もお前は余裕な顔して過ごしているはずだ」なんて言われてしまったので、それは信頼か別の何かか問いたくなった。

学校帰りに通り過ぎた飲食店はやけに抹茶のスイーツを推している。確かにこの時期は増える気がするが、ここまでだっただろうかと去年が一昨年のことを軽く思い出してみた。いつも似たような印象を抱いているような気がした。

大学生らしき男女が抹茶のスイーツのポスターの前で何やら話をしている。ちらっと聞こえたが、男は一人暮らしがどうとか言っており、女は聞き流すようにポスターのスイーツを指さして一言「食べたい」と言った。男は嬉しそうに商品を買いに行っていた。一体どういう関係なのだろうか。しかし、人間嫌いがここまで人間観察をするようになるとは、時間の流れは恐ろしい。

もう少しすれば、絶対的な繋がりが無くなってしまう。頻繁に顔を合わせることになるのだろうけれど、やはり確かなものが無いと不安になるのだ。私は案外、カフェで働いていることにしがみついていたらしい。

伝えると決めたからには、どうにも卒業の日が待ち遠しかったが。学校を卒業すると共にカフェも卒業するとなると少し寂しく感じてしまうものだ。


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