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「さつまいも、南瓜、栗あたりは定番だよね」
「林檎も有りなのでは?」
「黒ごま」
「えっ?」
「黒ごま」
少女の淡々とした言葉に店主は驚きを隠せないでいた。秋の新メニューを考えると言うことで、店主は勿論、店の売り上げ計算をしている副店長の男と、現在厨房では仕切ることも少なくない少女がテーブルを挟んでメニューの開発をしていた。
「去年は南瓜と栗。一昨年は林檎と葡萄。その前は無花果で更にその前はさつまいも。ぶっちゃけそろそろ飽きてくる頃だと思う」
「そもそも、甘い物でなければならない理由もないんだがな」
「だからこそ黒ごまなんでしょう。洋菓子は少し難しそうだけど」
「味見は任せろ」
「ペタは案外、甘い物が好きよね」
近頃、限定メニューの復刻を希望する声が上がっていた。季節によっていくつかメニューを変えているこのカフェでは、噂を聞いて来たものの、期間が終了していたり、品切れで食べられなかったりする人も多い。その要望が多いので、少女はいくつか復刻させようと考えていた。
「南瓜クリームのモンブラン……栗とさつまいもを使ったミニパフェ……アップルパイ……」
ぶつぶつと独り言を呟く。少女の脳内は今、メニューについてしか考えていない。
ある日の放課後は、シフトが入っておらず時間が余っていた。委員会の仕事も無ければ部活も無い。そんな日は友人らと共に少女は買い食いをしたり、雑貨屋を見たりと女子高生らしい時間を過ごす。
「そう言えばこの前、スーパーに買い物へ行ったら梨のジュースが売られていてね」
「へえ。まあ、無いとは思わないけど。買ったの?」
「うん」
「美味しかった?」
「わりと酸味が聞いてた。いや、味は話に関係なくてさ」
「いや、味を評価するべきなのでは」
「商品名が面白かったんだよ」
その時の写真がある、と言って友人は携帯電話の画面を見せる。ユニークな名前が商品に大きく印刷されており、何となくクスッとくるようなものだった。確かに目を惹かれるかもしれないな、と思うと少女は脳内に梨のスイーツを巡らせた。
ふと、すぐそばにいたらしい別の高校生達の声が少女の耳に入る。どこそこのスイーツが美味しかった、といった内容だ。店名は聞き取れないが、女の子はフルーツタルトが絶品だったと力説している。
「……梨のタルト」
小さく呟く。そして声の方に視線をやれば、女子高校生二人と男子高校生一人が南瓜のスイーツのポスターの前で話をしていた。赤と青と黄色が少し信号みたいで面白いと思いながら、少女は前を向く。
「タルトが何だって?」
「いや、新作のこと考えてただけ」
「ほほう……試作品の味見はさせてもらえるのかね?」
「うまく出来たらね」
* * *
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