「ああ、アオイって本当は人のことよく見てるし、困ってると助けてくれるし、存外人のこと好きだよね」
そう言うのは彼女を友人だと言う女子高生。他の二人もうんうんと頷く。それにジュースを運んでいる男も納得の表情をして、そのジュースを彼女達の前に運んだ。
話の人物は今日、この店にはいない。理由は至極簡単である。両親の墓参りだ。毎年欠かさず命日は姉と二人で墓参りをするのが恒例となっている。
既にカフェの常連となった彼女の友人らは、カフェの店長をしている男に彼女のことを聞かれ、答えたのが冒頭である。いつもニコニコ笑っているムードメーカーな女子高生はサンドイッチを頬張り、平凡ながらに非凡な努力をする女子高生はケーキに頬を緩ませ、癒されるような微笑みを浮かべる女子高生はクレームブリュレにスプーンを入れた。
「アオイは自分を過小評価し過ぎてるそぶりがある」
「あ、分かる」
「それ、そっくりそのまま君に返されると思うけど、本人に言う?」
男がちょっとした悪戯のつもりで言ってみれば、ケーキを食べていた女子高生がムッとした表情を浮かべた。
「私達はアオイの家のことなんてさっぱり分からないし、本人も多分言う気はないんだと思うよ。ここの事も、ペタの事も、警戒解かせて何とか聞けたようなものだし。でも、本人がああで、纏まるものも纏まらないでしょう?」
「僕は、アザミやアオイは年齢の割に大人びていると思っていたけど、君も大概大人びてるよね」
「アザミさんのことは分からないけど、アオイは背伸びしてるだけだと思うけどね」
「へえ。言うね」
「だって私もそうだもの」
クレームブリュレの甘味と滑らかな舌触りを堪能している隣で、サンドイッチを咀嚼しごくん、と飲み込んだ女子高生は元気いっぱいにナポリタンを注文した。その流れで、男に言う。
「わたしはね、ぶっちゃけペタも悪いと思うんだー」
「と言うと?」
「アオイの性格は家の問題だとしてもね。アオイの恋愛に対する姿勢ってどうにも積極的じゃないと思うんだよね」
ストローでジュースを飲みながら、時にストローの端を噛んでは弄ぶ。実に行儀が悪い。
「アオイが自覚する時、何かあったんじゃないかなーって予想」
「あ……あー……」
「何か心当たりがあるみたいだね?」
「大したことでもないよ。ただね……ペタは素直だからさ」
「あの人の場合、素直と言うより遠慮が無いだけでは……?」
「素直なんて可愛らしいものではないよね。私はまだ出会ってそんなに経ってないから知らないけど、少し関わり難いかな」
「幼い頃から知ってる私でさえペタは少し気難しいところがあると思う」
「わたしはお母さんみたいだと思ったけどなー」
好き勝手に言う女子高生達に男は苦笑いを浮かべ、今厨房で調理している友人の顔を脳内に浮かべた。この場面に出くわしたら、眉間に皺を寄せ怖い目つきで睨むのだろう。そう思うと今はこちらに出てこないでほしいと思わざるを得なかった。
「で、一体ペタはアオイに何を言ったの?」
「言ったって言うか、アオイが聞いちゃったって感じかな」
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