10周年記念 | ナノ
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私達のクリスマスパーティーはいつも25日当日じゃなく、イヴの24日か翌日の何でもない日である26日だった。今回も勿論その予定で、今年は24日にするとルーシィからの連絡があった。その直後、ロキからのメールが届いて、26日は一日何もないと言われた。

もう一ヶ月くらい前のことだ。話がしたい、と彼に言った。彼とは都合が合わず、私の都合も合わず、グダグダと今日まで過ごしてしまったけれど。もう終わるのだと、安心するのと同時に寂しさが襲った。我儘な感情が溢れる。自分勝手で、醜いそれは彼を困らせるしかないから、私はいつものように押し殺した。

本日はパーティーの決行日である24日。ラッピングされたプレゼントは運ぶための袋に入れられ、部屋の椅子に置かれている。開始は18時から。今の時刻は14時。お昼ご飯を済ませ、部屋の飾りつけをルーシィとしている最中だ。もう一人の幼馴染みであるロキは冬休みに突入したせいでアルバイトのシフトを入れられたらしく、恨めしそうな表情で昼食前に出て行った。私は今日、朝からずっとルーシィと彼の家にいて、飾りつけや料理をしていたから必然的に見送る形となったわけだ。

飾りつけと言っても、ツリーに付属の飾りをつけて、豆電球のコンセントを挿し込み、一度点けてみるだけ。無事に点いたのでスイッチを切る。翌日、ハートフィリア家でのクリスマスパーティーで再利用するらしく、ルーシィとロキはこのツリーの傍で二回もパーティーをするのだといつか言っていた。

「毎年ケーキや料理はリディアに任せっぱなしだし、飾りつけの時くらい休んでてもいいのに」

「一人じゃ大変でしょう? 高いところとか」

「多分、リディアの方が届かないと思うよ……」

「そうだね」

ケーキは午前中に出来上がった。今は厨房の冷蔵庫で冷やしている。料理の下拵えも出来ているから、後は時間に合わせて調理していくだけだ。三人分だし、それ程時間はかからないだろう。ロキが外から帰ってくるからスープを温めておかなくては。



飾りつけが終わった後、ルーシィが飲み物を買い忘れたと言って一緒に買いに行ったり、調理を手伝って貰ったり、駅までロキを迎えに行ったりしてあっという間に開始時間の18時となった。少し冷めてしまったものは温め直して、料理をテーブルに並べる。今年はオニオンコンソメスープ、きのことポテトのグラタン、バゲット、フライドチキン、小エビのサラダ。毎年被らないように考えるが、そろそろ難しくなってきた。小学生の頃はまだ大人の手を借りながらのパーティーだったから、料理に関しては任せていたのだけれど、相当悩ませていたのではないかと思えてくる。

着替えたロキが来て漸く三人揃ったところで、それぞれ一つずつクラッカーを持ち、ルーシィの掛け声で同時に紐を引く。パアンッ、と心の準備をしておかなければ吃驚してしまう音に肩を揺らしながら目を開けば、目の前にヒラヒラと舞う長いリボンや紙吹雪。口々に「メリークリスマス」と言い合って、パーティーの開始を告げた。

「部屋、焦げ臭いね」

「クラッカー三つも使ったからね……」

なんて言いながら料理に手を付けていく。体が冷えていたらしいロキはスープから。私とルーシィはサラダから。適当な会話をしながら、気を遣わない空間で笑い声が溢れる。ルーシィに学校生活はどうだとか、来年は受験生だねとか、私達もそろそろ就職を考えなきゃいけないだとか。一瞬、ロキが黙ったのを見逃さなかった。

料理を食べ終わると、ケーキの前にプレゼント交換をする。一人一つ、プレゼントを持ち寄って、音楽をかけながらくるくる回すのだ。音楽が止まれば私達も動きを止めて、その時持っている包みがプレゼントされる。今年も同じ。それぞれが持ってきたプレゼントを手に持って、ロキが用意したクリスマスソングが流れる。約4分回し続けるのは辛いだろうと、彼は毎年パソコンで曲短く編集しているらしい大体Bメロから流れて、サビ終わりまで続く曲に耳を傾けながら、円になってプレゼントを回していった。

毎年誰かしらが「もっと人がいればいいのに。味気ないよね」なんて言うが、誰も人を増やそうとはしなかった。ルーシィもナツ達を呼べばいいのに、このクリスマスパーティーだけは毎年三人でやっている。今年は26日にナツ達とやるのだそうだ。

曲が鳴り終わる。ピタッ、と動きを止めた。私のプレゼントは薄い水色と白の水玉模様の袋で、緑色のリボンが袋の口を結んでいた。私が持ってきたプレゼントはどうやらルーシィに当たったらしい。薄い桃色の包装紙に包まれて、赤い造花を付けたものだ。ロキは黄色の包装紙に包まれた箱に、オレンジのリボンが十字に交差するように巻かれ、中央に星のシールが貼られている。

「あ、あたしのプレゼントはロキに行ったのね!」

「ルーシィは一体何を僕にくれたのかなあ?」

「開けてみたら分かるわよ」

ニコニコしながらルーシィは言う。自信たっぷりのようだ。

「あたしが貰ったのはリディアのプレゼントだよね! 楽しみ!」

と言うことは、私の手元にあるのはロキのプレゼントなのだろう。ルーシィもロキもプレゼントを開封し始めている。私も結ばれたリボンを解けばすぐに中身が見える。この中なら私が持っているものが、一番開封が楽だったらしく遠慮なく開いた口から中を覗いた。

「え……」

思わず声が漏れる。予想していなかったものがそこにあって、瞬きをしてしまった。次々と似たような声が上がる。開封し終わった他の二人も中身を見たのだろう。ああ、何となく予想出来てしまった。三人で顔を見合わせて、一斉に中身を取り出す。そこには、色や素材こそ違うものの、商品としては同じものが三つ揃っていた。

「全員マフラー?」

「まさかの全員被り」

「もふもふ……」

値札は外されたそれが、いくらのものなのか分からない。しかし触り心地は大変良くて、思わず顔に埋めしまう。頬に当たる生地が柔らかくふわふわしていて、冬はこれがあれば温かく過ごせそうだと思った。他の二人もそれを見て、マフラーの触り心地を確認する。素材は違っても心地良いのか、二人に笑みが浮かんでいた。

「こんなこともあるのね……」

「考えることは皆同じだね」

私が買ったのは編んだような作りの白いマフラー。素材までは確認していない。触り心地が良かったのでそれにした。ルーシィは気に入ったのか既に首に巻いている。

「ふふ……リディアからのマフラー、嬉しい」

本当に嬉しそうに笑って、くるりと一回転。「どう?」と聞いてきた。うん、似合ってる。そう言うとこれまた嬉しそうにふふ、と笑う。うん、可愛い。



時刻は22時を少し過ぎた頃。ケーキも食べて、テレビゲームに興じていたところ、時計を見るともうそんな時間だった。1時間で片付けが出来るだろうかと考えていると、サッと一人、片付け始める人物がいる。

「後片付けは僕がやっておくよ。準備は任せちゃったからね」

そう言われては何も出来ない。横スクロールのゲームをルーシィがプレイしている画面を見ているしか出来ない。先程まではこのキャラクターが車に乗ってレースをするゲームを三人でやっていた。テレビゲームに移る前はカードゲームもしていた。トランプで神経衰弱をするといつも悔しがる声が聞こえる。逆に私は七並べが苦手で、ルーシィが困っているとついつい出してしまいがち。ロキは何でもそつなく熟すから、大体いつも真ん中くらいの順位だ。

窓の外を見る。雪は降っていない。この辺だとあまり降らないから、ホワイトクリスマスになったことなんて記憶の中で1、2度あったかどうか程度だ。大体年も越す頃になると降るようになってくるものだけれど。その一週間くらい前では降らないのだから不思議なものだ。

ゲーム画面を見ていると時間はあっという間に過ぎ去った。後片付けが終わり、私は隣の家に帰る為コートを着込む。折角なので貰ったマフラーを巻いてみると、首が温かい。

「リディア、すっごく似合ってる!」

「そう? ありがとう」

選んだのはロキだけどね。チラリと彼の方を見ると、こちらを凝視してくる。彼のお気に召さなかったのだろうか。まあ、私が貰ったものだから、遠慮なく使わせてもらうけど。

「じゃあロキ、送っていってあげてね」

「え、ああ、勿論だよ」

広い玄関を出ると冷たい風が吹く。ひんやりした空気が服の上からでも分かって、体の芯から冷やしていくような感覚がした。ロキも貰ったマフラーを付けている。青と白の縞々模様。大きな門……ではなく、玄関先から見て右手側にある小さな門から出た。このくらいの時間になると大きな門は車が出入りしない限り開かない。私の家までの距離が少し近くなった。

「あのさ、26日のこと……」

「うん。分かってる。場所はどうしようか」

「あー……あの、公園がいいなって僕は思うんだけど」

あの公園、私達の間で出る公園はあそこしかない。外、なら昼頃かな。冬休みに入ったとは言え、子供は少ないだろう。

「分かった。時間はお昼頃でどう?」

「そうだね」

家の前に到着する。門扉を開いて玄関先まで行って振り返れば、何か言いたげなロキが「じゃあ、26日に」と言った。


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