彼と私と黄色 | ナノ
07*仲直りと妥協

オーバでさえ酷く驚いた表情をしている。彼らはそんなに信じられないのだろうか。私に男の友人がいるという事実を。とても失礼な話だ。私にはデンジと出会う前の人生というものがあったのだから、彼らの知らない人と親しげにしていても不思議ではないはずだし、それ程ショックを受けることとも思えない。

「……やっぱり、浮気か」

「はあ?」

「俺というものがありながら、お前は他のイケメンと浮気しやがったのか」

完全に拗ねている。元はと言えば私が出て行った原因はデンジとあのピカチュウのはずなのに、どうして私が責められているのだろう。

「浮気しているように見えたの?」

「仲良さげに話しやがって……」

「あの人、ダイゴさんって人で、ホウエンの元チャンピオンよ」

「へえ……は?」

デンジが漸く顔を上げた。少し間抜けな顔がこちらを見る。ふむ、間抜けな顔もそこそこで、彼は所謂イケメンという奴だから本当に狡い。

「ミント、チャンピオンと知り合いなのか?」

「元、ね。言っておくけどオーバ、あなたは四天王じゃないの」

「あ……」

「私はホウエン出身でしょ。その縁で知り合ってね。デンジ達と出会うまでは相談相手として頼ることも少なくなかったの」

一番の理解者というわけではなかったけれど。

「今はチャンピオンの座から退いて、石を求めて世界中をまわっている、みたいな話を噂で聞いたわ。今回シンオウに来ていると聞いたから会って話をしていただけ」

「でも、仲は良いんだろ?」

「拗ねてる? 嫉妬?」

「うっせえ……」

顔を逸らされてしまった。耳が赤いのが見える。ああダメだ。やっぱり狡い。

「多分、その気持ちは私がピカチュウに対するそれと同じなのよ」

同じなんだけれど、でもちょっと違うのだろう。

「分かったら今度から話くらい聞いてよね……私にも言い分ってものがあるんだから」

デンジの髪に触れようとした時、電撃が飛んできた。危うく攻撃が当たりそうなところで躱す。

「出たわね……メスネズミ……!」

「だからミント、口悪いぞ」

ピカチュウが私の傍まで来ると、ぺちぺち足を叩く。今までされてきた攻撃を考えればダメージなんてものはなく、行動だけ見ればじゃれているように見えなくもないだろう。どういう風の吹き回しだろうか。

「そいつ、お前が出て行ってから元気なかったんだ。飯は食ってたけど、いつもの元気はなかった」

今まで照れてそっぽを向いていたはずのデンジがこちらを見ている。ちょっとだけニヤニヤしているように見えるのは気のせいだと思いたいが、これは確信を持って言えるくらいにはニヤニヤし始めた。

「なんだかんだ仲良いよな、お前達」

そりゃあ、仲良くなれるなら仲良くしたい。ピカチュウ自体は嫌いじゃないし。ただ、今までは相手が拒んでいたからできなかっただけで、相手もその気だというのなら私は受け入れられる。

「ピカチュウ……」

私が呼ぶと、ピカチュウは突然高くジャンプして私の背中に蹴りを食らわしてきた。当然ながら私は床とご対面だ。倒れる時に鼻を打った。痛い。

「わりと本気で頭にくる」

「まあまあ」

「よかった、ピカチュウ元気になったな」

「わりと本気で頭にきてる」

この状況になっても尚ピカチュウか。私の心配は無しか。本当もう、ふざけないで。ちょっとでも期待した私が馬鹿みたいじゃない。結局この場に私の味方はいないんだわ。

未だ背中にいるピカチュウから笑い声が聞こえる。

「はあ……もう、それがあなたのコミュニケーションだと言うのなら仕方ない」

何度も期待してそれを裏切られているのだから、これがその結果だと言うのなら、それを受け入れるしかないのだ。私の体がいつまでもつのか分からないけれど、だいぶ攻撃に慣れてきたし躱すことも難しくない。我慢の限界が来るまで付き合ってやるのも悪くない。そう、これは妥協だ。

「私は仲良くしてあげてもいいと思っているけれど、だからと言って何でも許してあげると思ったら大間違いなんだからね……!!」

「ツンデレか」

「違う!!」



「結局、あの男は何だったんだよ」

「さっき説明したでしょ。聞いてなかったの?」

「なんか、大事なことを隠されていた気がする」

こういう時は鋭いやつだ。別に言うことでもないから言わないけれど。言った方がいいともあまり思わないし。

「知り合いのお兄さんって感じの人よ」

「ふーん」

意味ありげに見ないでほしい。興味あるのか無いのか、せめてはっきりしてよ。

「ていうか、あんた達知らないの? ダイゴさんのこと」

暫しの間があって、二人は同時に「あっ!!」と声をあげる。本当に仲がいい二人だ。私とピカチュウは思わずビクッと肩が跳ねた。

「あー! あの人か!」

「そういえば見たことある気がした」

「早く言えよ! お前が相当思いつめた顔で帰ってきて、知らない男とミントが一緒にいたって言うから驚いただろ!」

「いや、俺にとってはあまり知らない人だし、何よりミントが俺達以外の男と一緒にいたって言うのは驚くに値するものだと思う」

本当に失礼なやつらだ。一度殴っておきたい。いや、女の子としてはそんなこと出来るはずもないのだけれど。女の子としては。

「でも、チャンピオンなんて会いたくても会えるもんじゃねえし、やっぱりすげえことなんじゃねえの? いったいどこで知り合ったんだよ」

「私が旅に出る前からの知り合い」

「近所に住んでた、とか?」

「彼はカナズミで私はミナモよ? 全くもって近所じゃないわ」

これ以上話したらボロが出そうだからやめておこうか。

「どっちにしろ、男ってことに変わりはないから俺はそいつをボコボコにすればいいってことだな?」

「どうしてそうなった」

「ミントが困って真っ先に頼るのは俺でいい」

一瞬胸がときめいた気がしたけれど、今回私がダイゴさんを頼ることになった原因はデンジなのだから意味がないだろう。私のときめきを返せ。


2015.05.04



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