彼と私と黄色 | ナノ
04*赤色

「おい、デンジ。流石に見てられねえよ。ミントが可哀想だ」

「あれで結構気が合うと思うんだけどなー。何で仲良くできないんだろう」

「お前、本気か?」

昔からそうだが、昔馴染みのこいつの考えが時々読めない。明らかに相性悪そうな一人と一匹を前にして、そんなことを言えるのはこいつの目が節穴ということだろうか。

「ピカチュウがミントのこと毛嫌いしてるんだろ。そしたらミントからはもう何もできねえじゃん」

「あんなに可愛いミントを毛嫌いするなんて、ピカチュウにはどんな風に見えているんだろうな」

「お前こそあのピカチュウがオスにでも見えてんの?」

「何言ってるんだよ、オーバ。どう見てもメスだろ」

「よかったよ。お前がちゃんとオスとメスを理解してて」

いや、むしろ理解した上でそう言っているんだから正気ではないってことだよな。大丈夫かよ。

「分かった。俺とミントの仲がいいところを見せればピカチュウもミントに心を開くんじゃないか」

「は? おい、ちょっと待てよ!」

なに、名案! みたいな顔してるんだよ。それは火に油を注ぐのと同じだぞ。おい、ミントに近付くな。あ、こうして見るとあのピカチュウ、本当にデンジのこと好きなんだな。見て分かるわ。あ。

「……なっ、何よ急に!?」

悪い、ミント。俺には止められなかった。

「いや、だから、俺と仲良くしてればピカチュウもお前と仲良くできるかと思って」

「だ、だからってオーバもいるのに……! き、キスする必要なんてないじゃない!」

「ほっぺくらいで何言ってるんだよ。今更恥ずかしがるなよな」

だからお前はミントにデリカシーがないと言われるんだ。ほら、ミント真顔になっちまったじゃん。ピカチュウもビリビリしてるし。あっ。

「ピカチュウが初めて俺に引っ掻いてきた」

「……そりゃそうだろうな」

「デンジ、最低よ! 恋する女の子を前に彼女とキスをするなんて、本当にデリカシーがないんだから!」

「……恋する女の子?」

「ピカチュウ、あなたがショックを受ける気持ち、私には分かるわ。私も同じ目にあったもの……」

壁の隅で不貞腐れるピカチュウにミントが語り掛けると、ピカチュウは耳をピクリと動かした。どうやら興味深い話だったらしい。

「前の彼女だか何だか知らないけれど、目の前でキスをしている場面を見るなんて後にも先にもないと思う。ショックよね」

こくん、と頷くピカチュウがミントの膝をポンポンと優しく叩く。それにミントもピカチュウの頭を優しく撫でた。

「仲良くなった?」

「あれは同じ被害にあった者同士、共感しているんだと思う。だから多分……」

「いたっ……ちょっと膝引っ掻くんじゃないわよ! お風呂とか入ると染みて結構痛いのよ!?」

やっぱりまた喧嘩が始まった。

「でもデンジ、お前が言っていた意味がちょっとだけ分かったぜ」

「ん?」

「確かにミントとあのピカチュウ、似た者同士って感じがするし、気が合いそうだな」

「そうだろ」

ただ、やっぱりデンジは少し空気を読むべきだと思う。自分への好意くらい気付けよ。


* * *


「あんのピカチュウ……私がポフィン作ってるって分かった途端齧ったやつ投げつけてきやがったのよ!? 食べ物粗末にするなんてありえない!」

「お前の怒りはそっちなのか」

相変わらず大変そうだな。

「あいつが美味しくて手が止まらなくなるくらいに美味しいポフィン作ってやるんだから!」

「俺、お前のそういうとこ結構好きだわ」

「ごめんなさい、オーバ。私にはデンジがいるから」

「そういう意味じゃねえよ」

まだ少ししか一緒にいないけど、ミントと一緒にいるのは案外居心地がいい。本人が明るい性格だからというのもあるんだろうが、話しやすい空気を持っているのもあるだろう。デンジよりは表情豊かで分かりやすいが、自分に関しての大事なことは隠す癖がある。

「ミントさ、結構ピカチュウとうまくやってんの?」

「は? そんなわけないでしょう。最近は顔への攻撃を防ぐことに成功したわ。そしたらあの子、足を集中的に攻撃してくるのよ? 本当、肌がボロボロになったらどうしてくれるのよ」

「でも、最近デンジの部屋に行く回数が増えたよな」

「デンジが呼ぶのよ」

「いいじゃん。仲良くなるチャンスだって」

「仲良くなれるならとっくになっているわ」

時々、ピカチュウと仲良くなれないことを憂えたような表情をする。多分、懐いてくれなくて結構寂しいんだ。こいつは案外寂しがりやだからな。

「私より先にオーバと仲良くなったのは納得がいかない」

「多分俺が男だからかな」

「オーバは自分が思っている程イケメンではないからね?」

「そういう意味じゃねえよ」

「でも、人が言う程イケメンじゃないわけでもないからね」

「どっちなんだよ」

早く仲良くなれよ、なんて軽く言ったら睨まれた。


ミントと一緒にナギサジムにやってきたら、普通より大分大きなピカチュウがミントに飛びついた。

「ミントおねえちゃん! あのピカチュウこわいー!」

「チマリちゃん?」

「どうしたんだよ?」

「ピカチュウが、ピカチュウが!」

ピカチュウ大好きなチマリがこれだけピカチュウを怖がるってことは……。

「ちょっとデンジ! あのピカチュウを連れてきたわね!?」

「だって寂しそうな顔するから」

「ふざけんな! チマリちゃんが怯えてるじゃないの! そうなると思って連れてくるなって言ってあったのに!」

敢えて言わないでおくけど、ミントの怒る姿も結構怖いから、チマリはそれにも怯えている可能性がある。

「ピカチュウ、チマリちゃんは純粋にデンジを兄とか近所のお兄さんとかそんな感じで懐いているだけだから次何かしたら許さないわよ」

ミントのチマリ好きも大概だな。


2015.04.05



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