僕らのご主人様 | ナノ

「は? またダイゴさんいないの? この間までいたよね? 何で?」

「何でと言われても、ダイゴなら珍しい石を探しに行ってしまったよ」

「ミクリさんはなんで引き止めておいてくれないんですか!」

「ダイゴはあれで石に関係すると何を言ってもきかないからね」

「何がストーンゲッターだ! 久々にホウエンに帰ってきたかと思えばもういないなんて!」

いつにも増してイライラしているこの女は、俺のトレーナーであるナマエだ。たった一人の男を探していて、情報を掴んだと思えば既にその場を去った後なんてことはよくあること。しかし、今回は会える自信があったんだろう。だからこそ物凄くイライラしている。

「ダイゴさんはいつになったら私と再戦してくれるんですか!? 明日ですか! 明後日ですか! 一ヶ月先ですか!」

「私に言われても……」

ナマエは憧れていた旅に出るのに時間を要した。特に、ポケモンバトルに関しては強すぎる程の憧れを抱いていて、いざ旅に出てバトルを始めると魅せられてしまった。

俺を捕まえたのは旅に出てすぐの頃で、俺はナマエが成長していくのを、強くなっていくのを近くで見てきている。負けず嫌いで勝利に貪欲な彼女はトレーナーの間で軽く有名になりつつあるらしい。

そんなナマエが唯一、ずっと勝てない相手がいた。まさに彼女が追い求めているダイゴと言う男だった。男はチャンピオンとやらで、ナマエが目指す頂点そのもの。しかし、ナマエが男に勝つ前に、男はチャンピオンを辞めて石採取に行ってしまったのだ。

負けっぱなしが悔しい、絶対に勝ってやるとナマエが闘志を燃やし、修行に励んでいたと言うのに。

「一年でさえ長いのに……十年先だなんて言った日にはダイゴさん本人をボコボコにしてやろうか……」

「ナマエちゃん、落ち着いて」

「ミクリさんは悔しくないんですか!」

「いや、私は別に」

「くっ……」

ナマエは絶対、八つ当たりを俺達ポケモンにはしない。物で発散することもない。発散する時はいつもポケモンバトルで、だ。俺や他のナマエのポケモンは好戦的な奴が多いから、相性はいいんだと思う。しかし、そろそろナマエの相手をしてやってほしい。

「ダイゴさんのバカ……」

いつも、居場所を掴んだと思えばすり抜けるようにその場を去っているあいつのことを考えては、時々涙を浮かべるから、俺達はどうしていいか分からなくなるんだ。

優れたバトルセンスを持っていても、判断力を持っていても、こういう時ナマエは子供なんだと思いしらされる。壁にぶち当たっても楽しそうにするくせに、あの男のことになるといつも焦りっぱなしで余裕がない。

「私からも言っておくよ。ナマエちゃんが待っているって」

「引き止めてくれないくせに」

「ダイゴを引き止めるのは難しいんだ」

どうしたら泣き止むんだろうか。何度考えても分からない。

「いやあ、忘れ物しちゃったよ」

「あ、ダイゴ」

「ダイゴ、さん?」

「あれ? もしかしてお邪魔だった?」

「何の勘違いですか!」

普段物に当たらないナマエが、自分の鞄を投げつけた。中には色々入っているのに、壊れたらどうするんだ。

「やっと捕まえましたよ。ダイゴさん」

「ナマエちゃん……」

「いつもいつも、あっちに行ったりこっちに行ったり……私との再戦の約束はどうしたんですか!」

「あ……」

「ダイゴ……その顔、忘れていたね?」

「ダイゴさんのバカ! もう知らない!」

その場から逃げるように走り出すナマエを追いかけて俺も走り出す。室内から出たところで立ち止まり、声を押し殺して泣く後姿に、やはり俺は何もできずに傍をウロウロするだけ。

明るく元気だけが取り柄だったナマエが泣いているのは、旅に出てすぐゲットされた俺としては見ていて気分のいいものじゃない。すり寄ったり、裾を引っ張ったりしてみても、泣き止む気配はなくて、ただただナマエが涙を流していくだけだった。

「ナマエちゃん」

後ろから声がして、ナマエはピクッと反応するが振り返らない。代わりに俺が振り返ると、そこには申し訳なさそうな顔をするあの男がいた。

「忘れていたと言うより、避けていたんだ。僕はまだ行きたいところが沢山あるし、君も行きたいところがあるだろう?」

「私には、ダイゴさんに勝たないまま行きたいと思うようなところはありません。他の地に足を運ぶのはダイゴさんに勝ってからだと決めてます」

「困ったなあ……」

「ダイゴさんがバトルしてくれればいいんです。それで勝ったら終わり、負けたらもう一度バトルする為、私はまた修行しにホウエン中を駆け回るので」

グシッと服の袖で涙を拭う。キッと目をつり上げて男を睨み付ける姿は、初めてポケモンバトルで負けた時のような顔をしていた。

「でも、ごめんね。僕はこれから仕事なんだ。次帰ってきた時にはバトルするから、それまで待ってて」

この男は……ナマエがここまで言っているのにヘラヘラと笑いやがって……噛み付いてやろうか。

「ダイゴさんのバカ!!」

そう言うとナマエは、ボーマンダに乗ってどこかへ行ってしまった。俺を置いて。

「ダイゴ、少しイジメすぎじゃないか?」

「そう?」

「全く……素直に言えばいいじゃないか。負けそうだから避けてると」

結局は自分が強い存在でありたいだけ、と言うことか。最低な男だな。やっぱり噛み付こう。

「間違ってないけど、多分ミクリが認識していることと違うと思うよ」

「と、言うと?」

「だって負けたら、追いかけてくれなくなるだろう?」

「ダイゴ……君ってやつは……」

「でも次戦ったらきっと負けちゃうなあ」

ムカついたので噛み付いておいた。



『再び笑顔を浮かべるまで』


なぜか自分の方がお兄さんみたいな気持ちのグラエナ。
2014.04.20

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