「レッドくん、見て見てー」
「えっ」
「サンドパンのトゲが抜け落ちたから拾ってみた」
相変わらずのんびりした奴だ。サンドパンが困惑しているからやめてやれ。
「ギャロップごっこができるよ」
「色が違う」
「それを言っちゃあおしまいだよ」
「僕もやりたいから貸して」
「あ、やるんだ」
久しぶりに背中に乗りたいと言うから乗せてやれば男と会うなど……怒ってやりたいところだが、ナマエも女の子だ。仕方あるまい。
「それにしても珍しいね。ナマエがここに来るなんて」
本来なら、わざわざこんな所に来るような奴じゃない。来るにしても、バトルの時以外に私を使うことは殆どない。それがどうして急にここへ来たのか、私も気になっていたところだ。
「レッドくんに会いたかった、と言うのが一番の理由なんだけど」
「その言い方じゃ、他にも理由があるみたいだね」
「グリーンくんが、連絡つかないって言ってた」
「あー、そう言えばポケギアの充電切れてたんだった」
「いつも気になってたんだけど、充電ってどうやるの?」
「ピカチュウに手伝ってもらう」
「ほう」
興味深い、みたいな顔をするんじゃない。
全く……ナマエはこんな男のどこがいいんだ。長い間家にも帰らず、恋人であるナマエの前にも現れず。時々連絡を寄越したかと思えば二言三言話して終わり。本当に恋人同士なのか? と疑いたくもなる。
もし、ナマエの一方的な思いだけで付き合っているのだとすれば、私はコイツを一度丸焼きにしておかなければならない。
「何だかウインディがこっちを睨んでる気がするんだけど」
「最近連絡寄越さないからじゃない?」
「ナマエのウインディって僕にそんなに懐いてないよね?」
「でもメスだよ?」
「え、それ関係あるの?」
「レッドくんは男でしょ?」
寒くなってきたのか、ナマエは私に抱き着いてくる。毛をもふもふしてから撫でて、ギュッと抱き着くのは私を捕まえてから治らない癖だ。
「ウインディが僕に向かってドヤ顔してるんだけど」
「まっさかー。ウインディがそんな顔するはずないよ」
「ナマエって本当……」
「んー? なに?」
「いや、何でもない。自覚がないならいいや」
「気になるなあ」
進化する前は、抱きしめられている感覚があった。ナマエの温かさも伝わってきて、こちらが温かい気持ちになる。進化してからは抱き着くようになった。ナマエの体温は僅かに感じられる程度だが、傍にいることはいつも分かる。
「レッドくんも暖をとる?」
「いや、いい。僕にはリザードンがいるから」
「ウインディに抱き着くと幸せなのに」
「そうかもしれないね。ナマエは、いつもポケモンと一緒にいる時は幸せそうだ」
「うん」
ナマエが幸せそうに笑う瞬間は、ポケモンに触れている時。私や、他のポケモンと触れ合っている時。嬉しそうに、楽しそうに笑うのだ。そして同じように笑うのは、この男と話している時。この男はそれに気付いていない。
だからイライラするんだ。もっとナマエの気持ちを考えられないのか。連絡が来た時の嬉しそうな顔を見て何も思わないのか。
「たまには帰ってきてね。だってさ」
「え?」
「レッドくんのお母さんからの伝言」
「もしかして、それでここに来たの?」
「そうだけど、最初に言った通り、私が会いたかったっていうのが一番の理由」
悔しいが、一番いい笑顔をするのがこの男の前なんだ。ナマエを泣かせたら絶対に許さない。
『君の涙なんて見たことがないけれど』夢主はウインディに乗ってシロガネ山にやってきた。
2014.04.05
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