雨色 | ナノ
06

今でも鮮明に思い出せる。

大切な人達が死んでいく様を。大切な人が死闘を繰り広げた様を。世界が平和を取り戻す様を。大切な人が、呪われた瞬間を。


幼いながらに、この世界が大好きで仕方なかった。綺麗で、見ているだけで心が温かくなる。だからこの世界を守ろうと思った。非力で無知な自分でも、そう思う気持ちは誰にだって負けないと思っていたから。

ある日、小さな村にやってきたクロスガードを見に行った。大きくて、強そうな男の人ばかり。この人達が世界を救うんだって思うと、居ても立っても居られなくて、まだ子供なのに私は彼らにお願いをした。クロスガードに入れてほしい、と。

今思えば馬鹿なお願いだった。子供で、それでいて女の私が、ARMなんてまともに扱えない非力な私がクロスガードに入れるはずがない。実際、ダメだと言われてしまった。それでも、私も世界を救いたくて、不意に目に入った男の子を使った。

「私と同じくらいの男の子だっているんだから、私も戦いたい!」

そんな私の言葉を聞いて、「あはは!」と大きな声で笑ったのは特徴的なローブを着た人だった。

「こんなに威勢のいい女の子、そうそういるもんじゃないな!」

「おい、アシュラ。まさかお前……」

「いいじゃないか。俺が面倒を見る。こんな男だらけのむさ苦しい場所に一つくらい花があってもいいだろ?」

「お前が面倒見るって言うんなら……」

「俺らじゃあ守ってる暇ないからな」

「決まりだな。お前、名前は?」

「ユーリです!」

「俺は、ここではアシュラって呼ばれてる。クロスガードに入ったからにはお前にも修行してもらうからな」

修行は厳しいし、辛いし、痛いし、幼い自分がこなすには無理があると思う。けれど、力をつけていく度に私は嬉しい気持ちになって、楽しくなった。

同じくらいの男の子――アルヴィスとも仲良くなって、多分浮かれていたんだと思う。


「これは僕が君を気に入った証だよ」

大切な仲間が呪われる瞬間を、ただ見ているだけしかできなかった。

幼いながらに、ファントムに立ち向かったアルヴィス。ファントムはアルヴィスを気に入って、呪いを与えようとする。アランさんは必死に止めるけれど、その声も届かずにアルヴィスは呪いを受けてしまう。

私は、戦いで体力と魔力を消費しているアシュラさんに守られて、身動きも出来ず声も出せず、何も出来ず。

そこで私は初めて、自分は弱いのだと気付いた。守りたいと言いながら、守れる程の力なんて持っていないのだと。

アルヴィスを守りたかった。世界を守りたかった。でも私は、小さくて何も知らなくて、とても弱い。


チェスの兵隊が開催したウォーゲーム。当然私は不参加。子供が出られるものじゃないし、力だって足りない。でも、私はクロスガードが負けるなんて毛ほども思えなかった。

私を修行してくれていたアシュラさんは勿論のこと、ガイラさんやアランさん。そしてクロスガードのキャプテンであるダンナさんがいて、負けるはずがないと思った。

しかしまさに死闘。クロスガードの戦士は殆どが戦争で死んでいって、ダンナさんは相手のキャプテン――ファントムとの戦いで相撃ちとなった。アシュラさんも深手を負い、立つのもやっとの状態だった。

世界が壊されて行く恐怖。大切な人達を失う恐怖。それらが一気に襲ってきて、泣くことも出来ず、何も出来ず。私はまた、自分の弱さを思い知らされた。


「アルヴィス、ごめんね」

「どうしてユーリが謝るんだ?」

「私が弱かったから……」

アルヴィスはにっこり笑って首を横に振る。アルヴィスも、周りの大人達も、皆私のせいじゃないと言ってくれた。

「あのね、私、もっと強くなりたい」

「うん」

「強くなって、次にファントムが目覚めることがあれば、今度こそ私が……私達が倒したい」

「うん」

勝ったなんて言えない。結果的には相撃ちだし、こちらは多くの犠牲者を出した。勝ったなんて、とてもじゃないけど思えない。

「強くなって、今度こそファントムを倒そう」

そう言ったアルヴィスに、私は力強く頷いた。


* * *


懐かしい夢を見た。私が生きてきた中で一番怖い記憶。一番嫌いな記憶。忘れたくても忘れられない、忘れちゃいけない。

「そういえば、この辺でバッボに似たARMを見かけたって奴がいたな」

「まさか。バッボは確か、アランさん達が封印するとか言ってたじゃないですか」

「ああ。だから俺も不思議に思ってはいたんだが、自分で動いているし話していたらしい」

バッボの封印が解けた……アランさん達が封印したのに。そんなまさか。

「少年が連れていたらしいぞ。十代前半くらいの少年だと聞いた」

「だったら尚更おかしいじゃないですか。十代前半の少年が、アランさんの封印を解けるはずがありません」

「お前はどんな封印か知らないんだったな」

「え?」

アシュラさんは意味深なことを言うと、御馳走様と言って席を立った。

「しかしまあ、ずっと修行を手伝ってやっていて今更別行動なんて、静かになっちまうな」

「修行は終わりだと言ったのはアシュラさんの方じゃないですか」

「俺に頼ったままじゃこれ以上強くなれないだろ? あとは自分で何とかしな」

「はい。勿論です」

寂しくなる。この人に修行してもらうのも、この人の食事を作るのも、もうおしまい。

「じゃあ最後に、お前に教えてやるよ」


食事も宿も全部自分で何とかしなくてはならない。修行中に稼いだおかげでお金はあるものの、いつまでもあるわけじゃないし、また稼ぎながら旅でもすることになるのか。

しかし、宿はともかく食事は心配だ。アシュラさんの。あの人、戦いにおいてはかなりの腕前なのに、家事に関しては一切出来ない。掃除はともかく、料理は本当にダメで、外は焦げているのに中は生焼けの魚が出てきた時は生きていけるか不安になったものだ。

人の心配をしている立場ではないのだけれど。しかも相手は師匠なわけだし。だけど、クロスガードに入る前にも一人で旅をしていたと言うし、心配するだけ無意味なのかもしれない。

やっぱり、私自身のことを考えよう。どこへ行くか……実のところそれはもう決まっている。アシュラさんが言っていた、バッボの封印が解かれたと言う話が本当だとしたら、まだこの近くにいるかもしれない。

その封印を解いた少年とやらに会って話を聞ければ、もしかしたらバッボを破壊できるかもしれない。世界を守る為にも、一人旅の最初の目的はバッボと少年探しだ。

「よし!」

気合を入れて町を歩き始めた。


2014.07.06

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