雨色 | ナノ
50

ギンタが戻ってきた。禍々しい化け物のようなものと一緒に。

「オーブの姿?」

ドロシーがそう呟いたことで妙に納得する。禍々しさも、化け物じみた姿も。

「バッボ!! 大丈夫か? のっとられてねーか!?」

「うむ!! いつも通りのジェントルメンじゃ!!」

ギンタはガーゴイルを発動する。ガーゴイルの攻撃がオーブ目掛け放たれ、オーブは消滅した。マジックストーンを残して。

「ギンタ! お前までここに来るとはなあ! たくましくなりやがってよ!!」

「オヤジ……生きてるんだな? 本当にオヤジなんだな!?」

二人の仲の良さが窺えると、本当に平和が戻ったような気がして一気に喜びが溢れる。そして浮いていたレスターヴァ城が地上に戻り、本当に終わったのだと実感した。

そこにアランさんに、国王が見つかったとの連絡が入り、スノウとエドと共に向かっていった。

「大丈夫か? オヤジ!」

「なーに、ピンピンしてるぜ!!」

「ワシの中に入っとったんだからな!! 大丈夫に決まっとるだろ!!」

終わったばかりなのにこの騒がしさで思わず笑ってしまう。

「ダンナさん」

「アルヴィス!! たくましくなったな!!」

そうだ。私もアルヴィスも、久しぶりの再会だ。

「ユーリも美人に育ちやがって! その辺の男がほっとかねえだろ?」

「え?」

「ダンナさん!」


「今度こそ本当の平和が訪れた!! 異世界の親子によって!!」

平和を望む民達で、人も声援も溢れんばかり。チェスの兵隊を倒し、キングをも倒したことで安心して暮らしていける喜びからだろう。

「お前、オヤジ臭くなったな」

「うるせえよ」

「ギンタの父ちゃんカッコいいっスね!」

「そうか?」

「ジェイクの息子だろ、お前。そっくりだ。あいつもカッコよかったぜ」

「あなたにそう言ってもらえると、父ちゃんもきっと喜んでいるっス!!」

そんなやり取りを見ながら、失ったものも大きいけれど得たものも大きいのだと思える。何より世界の平和を得られたのだから。

「チェスは壊滅した。真の平和がメルヘヴンに訪れたのだ。九人の戦士によって!!」

そして、メルヘヴンに平和が訪れたと言うことは、ギンタやダンナさんとのお別れを意味している。


「育て!! アースビーンズ!!」

ジャックが天まで届く程の大きな蔓を生やす。服装を変えたギンタが楽しそうにそれに登り始めた。

「皆も来いよー!」

「やれやれ。子供だな」

「俺も混ぜろー!!」

ダンナさんは変わってないなあ。

ドロシーはゼピュロスブルームで登ってしまったし、私は遠慮しておこう。

今までの殺伐とした空気が嘘のように、長閑な空間が広がっている。きっとチェスがいた間も、そんな雰囲気はあったのだろう。けれど、やっぱり今が本当の平和のようで、自然と頬が緩んだ。

「そういえば、アシュラさんは?」

「あいつなら、さっき顔出したかと思えば用が出来たとかでどっか行っちまったぜ」

「挨拶したかったのになあ……」

「あの人は突然現れる。それはユーリが一番よく知っているだろう? きっとまたすぐにでも会えるさ」

「アルヴィス……そうだね」

アシュラさんにはいつか会えるかもしれないけれど、アオイとはもう会えないんだろうな。彼女は大事な人を何人も失ってしまって、自分自身を殺してしまう程に追い詰められていたから。あのお姉さんらしき人は、アオイを助けてくれただろうか。

どんなに死にたいと思っていても、彼女の口から語られた好きな人の話だけはとても女の子らしかった。普通の女の子とは少し違う気もしたけれど、それでも彼女は好きな人を好きだと思いながら話していたのだ。

それに影響されたのかな。私もアルヴィスに、自分の気持ちを伝えたくなった。

「ねえ、アルヴィス」

「ん?」

でも、やっぱりすぐには口にできない。言うつもりなんてなかったし。

「アルヴィスは登らないの?」

「俺は登らないよ」

「そっか」

もう少し待って。あと少ししたら、きっと伝えるから。アルヴィスは困ってしまうかもしれないけれど、それでもきちんと言葉にするから。


蔓の上から戻ってきたギンタが徐に口を開いて言う。

「最後のバッボのマジックストーンの能力さ……もう作ってるんだ」

「逆門番ピエロか」

アルヴィスの言葉にギンタはコクンと頷く。皆も眉を下げて寂しそうな表情を浮かべていた。

「あのさ、うまく言えないんだけど……やっぱ最高だよ! メルヘヴン!! 来てよかった!!」

ギンタがそう言うと、耐えきれずにスノウは涙を流してしまう。

「ギンタ……また会える。私とコユキちゃんは繋がってる! また会えるよね!!」

涙を流しながら笑顔を浮かべていた。

「オレの世界のお菓子だよ。あげる。お守りだ」

そう言って何かを手渡した。

「門番ピエロってダイスの目で行ける人数決まるんやろ? 「3」やったら自分がもう一つの世界に行きたいわー!」

ナナシがおちゃらけるように言うと、ドロシーはギンタの頬にキスをする。

「大好きだったよ、ギンタン……」

ドロシーも切ない表情を浮かべながら笑顔を作っていた。

「ギンタンは、メルヘヴンで初めて会った人間って私なんだよね。なんだろう……もう懐かしく思えるよ」

「ドロシー……」

「おめえら最高の親子だ。ギンタ、ダンナ!!」

「バイバイや、ギンタ! 元気でな!」

「オイラのこと忘れないでくれ!! オイラ達は皆マブダチだ!!」

「ギンタ……俺は賭に勝った! ここに来たのがお前で良かった!」

「ありがとう、ギンタ!!」

皆、それぞれ気持ちを伝えていく。感謝と、好意を。

「ギンタ、一言いっておく」

泣きたいのを我慢して、笑顔を浮かべて。

「お主はリッパな家来じゃったぞ」

「元気でな。ケン玉!!」

「なんじゃと!? この無礼者!!」

「ケン玉だからケン玉って言ったんだ!!」

最後までギンタとバッボは喧嘩しているけれど、それがきっと彼らのあり方だ。

「バッボ、バージョン8!! 逆門番ピエロ!!」

そうして私達の英雄は、自分の世界に帰って行った。


2015.01.16

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