雨色 | ナノ
49

「もしかして、あなたの村だった?」

アオイだった……私の村を壊して、村人達を殺したのは彼女だった。大切なモノを奪ったのは、目の前にいる彼女だ。

ドクンッ、と心臓が大きく音を立てる。

「フローズ!!」

倒すべき相手。私が、彼女を倒さなきゃいけなかった。ウォーゲームで。

「確かに許せない! 大切な村を……村人達を……でも、それでもアオイはまだ引き返せる!!」

でも、壊されてしまったものはすぐに修復できない。村と言う大きなモノでは。

「理解するなって言ってるのよ! 何で分からないの!?」

「それでも理解するの! あなたは絶対に死なせない!」

アオイが波を作りだし、私がフローズでそれを凍らせていく。広がる波のせいでアオイを囲むように氷が作られた。

私は懇願するように、彼女に生きてと言う。それでもアオイは拒絶するように大量の泡を私目掛けて放った。それを打ち消して、アオイ自身を傷付ければ今度は人魚のガーディアンを出した。

「ダメ! 死なせない! カルト!!」

アオイの目的は何となく分かる。私と戦って、その中で殺されることだ。勿論、私はそう簡単に殺さないから、とにかく致命傷となる技を出させようとしている。

でも、そうはさせない。凍らせてしまえば身動きできないし、同時に死ぬこともないはずだ。すぐに戻さないと凍死してしまう恐れもあるけれど、アオイの魔力や体力を考えても少しなら平気なはず。

「あなたは死なせない!! 私と一緒に、この世を生きて罪を償うの! そして、人間は嫌ったままでいい。でもせめて、世界が美しいことだけは分かって!」

「それでも嫌いなの」

そう言いながらアオイは全身凍ってしまった。前のバトルでも同じようにしたけれど、あの時彼女は自分でそこから抜け出したけれど、私だってあの時のままではない。そう簡単に破られるはずがない。

アシュラさんとの修行でやっとカルトをコントロールできるようになったから、ARMに戻せば氷漬けは解かれる。パキンッと氷が砕ける音がして、中にいたアオイが出てくるとその場に倒れた。

薄らと目を開けているのを見て、まだ生きていることにホッとする。

「私もつくづくしぶとい……」

「でも、生きていてよかったでしょ?」

ガーディアンごと凍らせたせいか、アオイは酷く魔力と体力を消耗している。もう動けないはずだ。私一人じゃ彼女を運べないから、全部終わるまで待っていよう。

そう思った時だ。アオイがホワイトランスを発動して、その刃を自身に向ける。

「アオイ!! ダメっ!!」

私の叫びは虚しくその場に響いて、彼女は刃で自分の胸を貫いた。何も言わずに、私の言葉も届かずに。

「どうしてっ……アオイまで死ぬ必要はなかったのに!!」

大切な人を失って、生きていく意味も無くなって、それでも生きていく方法は沢山あったのに。生きていれば生きる意味を見つけられるかもしれないのに。

「それでも自分の意思を貫いちゃうのがアオイなのよ」

「えっ……」

誰……?

「この子のせいで、辛い思いをさせちゃってごめんね……でも、この子のことを理解しようとしてくれてありがとう」

優しい笑み……どことなくアオイに似ている気がするけれど、もしかして家族だろうか。そういえば、アオイの話の中に最近再会した姉がいるとか聞いたような……。

「あなたの仲間は今頃上に辿り着いていると思う。行ってあげて」

「でも、アオイが……」

「大丈夫。アオイのことは私に任せて」

愛おしそうにアオイを見つめる目が、この人自身を物語っている気がした。きっとこの人が、アオイの姉なのだろう。名前も知らない、きっともう二度と会わない人だけれど、私はとても安心した。

「あの……私、」

「もし、アオイとあなたが小さい頃に出会っていたら……或いはもっと別の世界に生まれて出会っていたら、仲良くなれたかもしれないわね」

「ありがとう、ございます」

そう言ってもらえて、心底嬉しかった。


上に辿り着いた時、ギンタが戦っていたのはダンナさんだった。それに驚いたのも確かだけど、不思議に思ったのはアリスを発動していること。

ドロシーの説明で、ダンナさんの体にオーブが入っているからそれを剥ぎ取ろうとしているのは分かったけれど、目まぐるしい光景で頭が追いつかない。

ダンナさんの体から邪悪な何かが飛び出した。

「今だ!! バージョン7、結合!! オヤジの体と精神よ、一つになれ!!」

しん、と静まり返る。その場に、意識を取り戻したダンナさんの声が響いた。

「俺だ……俺の体だ! オレは生き返ったー!!」

ダンナさんの体から離れたオーブは次にバッボに向かう。

「やべえ! 俺を支配してたオーブがまたバッボに入ろうとしている!!」

「バッボ! そうはさせねーぞ!! オレの意識もダウンロードしろ!!」

そう言ってギンタは自分の頭をにゴンッとバッボをぶつけて、倒れてしまった。

「ギンタ……バッボの中で、オーブと決着つける気か?」


2015.01.11

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