雨色 | ナノ
47

ファントムが倒れた瞬間、ギンタの勝利を宣言された瞬間、嬉しさがこみ上げて泣きそうになった。

私達は勝利した。圧倒的力を持っていたチェスの兵隊に。まだ十四歳の少年が立ち向かい、勝ったのだ。

「チェスが……消えた……」

「チェスが全員逃げたぞー!!」

「メルの完勝だあー!!」

観客達が大興奮の中、ギンタはポズンを睨み付けた。

「さあ勝ったぞ!! スノウのところに連れていけ!!」

「ひぃー!!」

「こいつのアンダータはレスターヴァ城に直結してるはず。そうだな?」

アランさんの睨みにポズンは大人しくアンダータを渡した。進行役をしていた彼だけれど、彼自身は強くは無いみたいだ。

「よしゃっ! アンダータ、メルのメンバーを、」

「待てい!!」

「大ジジ様!? なぜこんなところに!?」

大きな声で引き止めたのは、カルデアにいるはずの長老だった。カルデアで会った時と変わらない容姿に、全員が一目で長老だと理解できる。

「よくファントムに勝ったの。だがまだ終わりではないぞ。これをお主に渡しに来た」

そう言ってバッボのマジックストーンを差し出した。そしてファントム戦で傷付いたバッボを魔法で修復してくれて、何とも至れり尽くせりだ。

「なあ、ジーさんならわかるだろ? このARMなんだ?」

ギンタは丁度いいと言わんばかりにゴソゴソとポケットを探り、一つのARMを取り出す。

「プリフィキアーヴェではないか!!」

カルデアの長老が言うには、それでファントムが倒せるようだ。ファントムの体にあるはずの鍵穴に差し込むことができれば、アルヴィスのゾンビタトゥも消える。

心臓がドキドキしてきた。どんなホーリーARMでも解くことができなかったアルヴィスの呪い。私のせいで負ってしまったそれを、とうとう消すことができる。

「アルヴィス……」

思わず名前を呼んでしまう。

「ギンタ。そのカギは俺に預からせてくれないか? 最後は俺自身で、ケリをつけたいんだ」

けれど、心配いらなかったみたいだ。アルヴィスの表情に私は安堵を覚える。大丈夫だ。アルヴィスならきっと、ちゃんと終わらせることができる。

「わかった」

「よし、行こうかしらん。ディアナを倒しに!」

「スノウちゃんを助けに!!」

――そして、アオイに会いに

きっと彼女は、そこにいるはずだから。

「今回は私も行きますぞ!!」

「ワシもじゃ」

「じゃあ俺も行こうかな」

再び観客達から声援を送られ、ギンタはアンダータを発動した。


本来浮いていないはずのレスターヴァ城にやってくれば、案の定と言うか、沢山のチェスの兵隊が現れた。

「チェスの兵力、なめるなよ」

「ここから先はいかせねえ!!」

「皆行け!! 先に進むっス!! ここはオイラがひきうけた!!」

既に臨戦態勢に入っているジャックがそう言うと、彼に任せて先に進む。出会った時に比べれば随分と逞しくなった。

大きな門をアランさんが開けて中に進めば、マジカル・ロウが待ち構えている。アランさんとガイラさんとアシュラさん、そしてナナシがその場に残り、私達を先に進ませてくれた。

「頼んだ、四人とも!!」

そこでハッ、と感じる。会いたかった人の気配と魔力を。

「三人とも、行って」

「ユーリ?」

「ここから先は、きっと私はいらない。だから私は、私の問題を片付けてくる」

「大丈夫か?」

「うん。もう迷わない。もう負けない」

アルヴィスは小さく笑って、頑張れと言ってくれた。それだけで十分すぎる程に力が湧いてくる。


気配を頼りに進んでいけば。そこに彼女の姿があった。

「思ったより簡単に来ちゃうのね。もう会いたくないのかと思った」

「ううん。色々考えたけど、私はやっぱり理解したい。そう思ったから」

アオイはローブを着ていなかった。漸く彼女の姿を目にした気がして、嬉しくなるのと同時にそれ程までの覚悟を持っているのだと感じた。

「私、やっぱりあなたのこと嫌いよ」

「うん。そうだと思う。だから戦おう。今度は負けない」


2015.01.04

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