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「じゃあアオイは、村人達に家族を殺されたんですか? そんなことあるんですか?」
「殺した本人達が言っていたから事実だろうな。アオイ自身にも酷い扱いをしたと言っていた。人間を嫌う理由にしては充分すぎる……」
「でも、アオイは村を完全に壊すことはしなかった。村人達もまだ生きている人がいる。それなのにあの子は、死にたいと思っているなんて……」
思わず手に力を込める。やり場のない気持ちが溢れそうで、どうしたらいいのかも分からない。
「お前、あいつを理解したいと言っていたな? それでも出来るのか? 理解することなんて」
出来るのだろうか。私なんかに、あの子の気持ちを理解するなんて…………元より人間は他人を全て理解することなんて出来るはずもないのに。
「アオイは人を殺したいわけじゃない。モノを壊したいわけじゃない。だったらきっと、分かり合えると思うんです」
全てを理解することなんて出来ないだろう。私のことを理解してもらいたいわけでもない。ただ私は、あの子に人を嫌いなまま死んでほしくない。本当は生きていてほしいけれど。
「あ……そうか」
「どうした?」
「私、初めてアオイに会った後、もう二度と会うことはないだろうって思っていたのに、ずっと気になっていたんです」
「そんなこと言っていたな……どうして気になっていたんだ?」
「アオイは今にも、死にそうな顔をしていたから……」
だから思った。バトルをしながら、彼女が死にたいと思っているのだと。
「敵意はあっても、威嚇はしていても、殺意はなかった。それなのにあそこまで人を嫌っていて、今にも死にたいって顔をしていたんです」
もし私がアオイと同じ体験をしていたら、私だって人間を好きでいられるか分からない。人を信用できないかもしれないし、世界を嫌ってしまうかもしれない。でも、そう思うってことは私がアオイを理解できる可能性があると言うことだ。
それなら私が、アオイの気持ちをほんの少しだけでも理解してあげられれば、きっとアオイもせめて生きてくれるはず。だって生きていたらいいこともあるはずだ。死んでしまうのは勿体ない。
アシュラさんとの話を終えて、既に始まっている6THバトルに集中することにした。一回戦でアランさんが出ていたのはチラッと見たけれど、二回戦からはあまり見ることができなかった。話に集中していたからだろう。
私達が見た時は、大きなクジラの中からドロシーが出てきたところだった。それによってドロシーは勝利した。
残念ながらアルヴィスのバトルは既に終わったらしい。ごめんね、アルヴィス……ちゃんと応援してあげられなくて。でも勝ったみたいでよかった。
この6THバトルに出ているイアンは、スノウを氷の城から助ける時に出会ったチェスの兵隊だ。あの時は確かルークだった。この間、ギンタにわざわざ会いに来て殺すと宣言していた彼は、やっぱりギンタとのバトルを望んでいるのだろう。
ドロシーの次はスノウが元気よく前に出て、そしてイアンではないもう一人が対戦相手となった。その姿を確認した瞬間、スノウは酷く驚いてしまう。それでも戦うのは、勝たなければいけないからだろう。
「知り合いなんだろうな」
「戦いにくい相手、か……」
私にとってのアオイとは違う。もっと近しい存在だった人は、本当に戦いにくいだろう。戦うことを決意したはずのスノウだけれど、戦いたくないのも仕方ない。
「私、あなたと戦いたくない」
そう言うスノウは悲しい表情を浮かべている。しかし相手は戦うことを選択し、ガーディアンを出した。
戦いは続いていき、傷付きながらもスノウがウンディーネを出した時だった。彼女は丸いカプセルのようなものに囚われ、身動き取れない状態となってしまう。
「私の本当の目的は、あなた様を倒す事ではなく……」
捕らえて連れて行くこと!?
スノウとギンタの叫び声が響く。勝者は相手のマジカル・ロウとなり、ポズンは試合を続けさせようとした。
スノウを連れて行ったことに怒りを露わにするギンタは冷静さを失い、出てきたイアンとのバトルすら放棄すると言わんばかりの勢いでレスターヴァへ行くと言う。その場合、メルの負けだ。
「試合して……勝って……早くスノウを助け出してやる……!!」
必死に叫ぶスノウの声が私の脳内にこびりついている。何が目的なのか分からないけれど、ここは私が助けに行くしか――、
「待て」
「アシュラさん!?」
「一人で行って何になるんだ。第一レスターヴァへ行く方法も分からんだろう。ここはギンタが勝って帰ってくるのを待つしかない」
「でもっ……」
「せや。気持ちは分かるけどな、ユーリちゃん。ギンタを待った方がええ」
ナナシにも止められてしまった。
確かに、敵の本拠地に乗り込むのに一人では意味が無い。私なんてすぐに倒されてしまうだろう。私も冷静さを失っていたみたいだ。
見てみれば、既にギンタとイアンのバトルが始まっていた。仮面をつけた彼はやけに怖い雰囲気を醸し出していて、そんな彼もどこか怒りに満ち溢れている気がした。
結果はギンタの勝利だった。イアンのただならぬ怒りで自分が冷静になったからだろう。途中、危ないところもあったけれど、私達のキャプテンはしっかり勝利して帰ってきた。
そして皆が帰ってきたとほぼ同時に、奴らはやってきた。
倒すべき相手が率いたチェスの兵隊の六人。思わず悲鳴を上げる者もいる。タイミングがいいのか悪いのか、どちらにせよ狙って出てきたのは間違いない。
「ファントム!!」
「スノウを返してほしいんだよね、ギンタ。あれはクイーンがやったことだからね。僕にはどうしようもないよ。直接クイーンに会いに行くしかないね」
「行ってやろうじゃねえか!!」
「その前にすることがあるよね。最終決戦だ」
とうとう最後まで辿り着いた。良くも悪くも次で最後。
「ペタとかいうアホはどいつや?」
「私だ」
最終決戦、もしかしたら私の出番はないのかもしれない。ファントムが連れている人達が最後のメンバーなら、ここにいないアオイはもう出てこないだろう。ナナシは三角帽子の人を相手にするし、アルヴィスはきっとロランだ。アランさんはハロウィン。あとの二人は分からないけれど、当然ながらギンタはファントムだろう。
今はここにいないジャックと、私達の中でも最強に位置するドロシーを入れれば、私の出る幕はない。
「ついにお前に辿り着いたってわけだな!?」
「そうだね。よくここまで来たね。素晴らしいよ、君達は……」
禍々しい程のオーラを見せるファントムは思わずゾクッとしてしまう程に不気味だ。
「明日が楽しみで仕方ないよ。明日こそ我々チェスの兵隊が完全勝利するのだからね……」
「そんなことさせねーよ! オレ達は勝つ!! そしてクイーンもキングも倒す!!」
ギンタの言葉にチェスは笑う。まるでそんなこと無理だと言うように。
「笑うだけ笑うがいいさ」
「六年越しの決着だ!!」
「倒す。現実にしてやるからな」
笑ってファントム達は去っていく。明日の説明が終わり、ガイラさんが最後の修行として修練の門に入るよう言うと、同時に六つも門を出した。
皆が気合いを入れて修行に臨む。その中に私はいない。
「アシュラさん、私も最後に修行お願いします!」
それでも私は、頑張りたい。皆と同じように、強くなりたい。
2014.12.14
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