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「おはようございます。メルの皆さん」
昨日は休みで今日からまたウォーゲームが再開される。いよいよ6THバトルが始まろうとしていた。
「それでは、ステージとメンバーの人数を決めさせて頂きます」
昨日一日、私は精神を落ち着かせる為に出来るだけアシュラさんと一緒にいた。ドロシーは用事があるとかで一緒にいられなかったのと、年下のスノウに頼るのは年上としてどうかと思ったからだった。何より、アシュラさんは私が一番信頼を寄せている人間だから。
その結果、大分落ち着いてきたと思う。相手がアオイでなければ戦えるだろう。アランさんの言うように、アオイはもうウォーゲームに出てこない可能性は大きいし、もうチェスに知り合いはいない。
もしウォーゲームに出られるなら、きっと次は勝てる。
「キノコフィールド! 人数は五対五!! 誰が出ますか!?」
ステージと人数が決まり、それぞれが戦う意思を見せた。ギンタ、スノウ、アルヴィス、ドロシーが出るらしく、残る一人は私かナナシかアランさんなのだけれど……。
「そして俺様だ!」
力強く表明したのはアランさんだった。
「オッサン出るの久々だな!」
「たまには体動かさねーとなまっちまうしな」
「ま、まさかアランさん、どうしても私を戦わせたくなくて……」
「違えよ!」
アランさんは深い溜息を吐いてから口を開く。
「まあ、どっちにしろユーリを出す気はなかったがな」
戦っていいのなら、私は皆と一緒に戦いたかった。足手纏いだと分かっているけれど、それでも小さな力でも何か出来ると思っていたから。
「アシュラが話あるってよ。昨日はお前の精神を安定させるために話さなかったんだろうな」
「アシュラさんが?」
「まあ、今度はお前が話を聞いてやれ」
だから、今回のバトルは元々出す気はなかったのだろうか。
「俺はもう出なくてもいいと思うぞ。ユーリが応援してくれるだけで充分だ」
「あんた、今さり気なく応援してくれって言ったわね?」
「勿論、皆のこと応援してるよ!」
何だかとても可哀想な目で見られた気がした。
「そーいやジャックはどこいったん?」
あ、それ私も気になってた。さっきから見かけないなあって思っていたのだ。
「ガイラさんがいない事を考えると、修行でもしているのだろう」
「私もアシュラさんと修行しようかなあ」
「ユーリは応援してくれるんだろう?」
「え、そりゃあ応援してるけど、修行しながらでも出来るかなって」
「応援に集中しよう」
「はい……」
最近アルヴィスの押しが強いと言うか、無理矢理納得させられている気がする。
傷付けたくないと言って、バトルに出させないようにするアルヴィスは子供の時と変わらず優しいけれど、私との力の差をどんどん広げていって遠くに行ってしまうような感覚に陥る。手を伸ばしたらすぐそこにアルヴィスはいるのに、伸ばしても届かないような気がして。
「それではこの五人を、アンダータ!!」
五人がアンダータでキノコフィールドへ行ったのを確認してから、アシュラさんの方から私に近付いてきた。
「昨日は話せなかったんだがな……」
「はい」
一体、どんな話だろうか。私のことだろうけれど……もしかしてアシュラさんも、もう私はバトルに出ない方がいいと考えているのだろうか。
「そんな不安そうな顔をするな。お前の話じゃない」
「えっ……」
あ、顔に出てたのか……恥ずかしい。
「お前と戦ったやつの話だ」
「アオイのことですか?」
私の言葉にアシュラさんはコクン、と頷いた。どうしてアシュラさんがアオイのことを気にするのか分からないけれど。
「あいつ、お前との戦いで「初めに殺したのも壊したのもそっち」だとか言っていたよな? いいところがあれば悪いことを許せるのか、とか何とか……」
「そうですね……」
「俺が前に話した、昔の失敗の話は覚えているか?」
「はい」
それとこれと何の関係があるというのだろうか。
「これは俺の勘なんだが、アオイはもしかしたら俺が失敗した村にいたんじゃないか?」
「えっ!?」
いや、でも、私とアオイはそんなに歳が離れていないように思うし、アシュラさんがその村に行った時の年齢を考えればそれはないんじゃないだろうか。
「別に俺が村に行った時、あいつがいたわけじゃないだろう。むしろその後だ。魔力を有する人間を嫌悪し、殺しさえしてしまうようになった村にいた場合、あのアオイとか言う女はどうなる?」
「で、でも人間初めから魔力を持っているわけでもないだろうし……あの子だってきっとチェスに入ってからARMを使うようになったんだと……」
「魔力だけなら幼い頃から持つことも可能だろう。ユーリ、カルデアに行ったんだろう? そこは魔力が高かったはずだ」
そしたらアオイはカルデア出身ってことになって、結局村との関係性はないはずだ。きっとアシュラさんの思い過ごしだろう。でも、胸がザワザワする。胸騒ぎと言うやつか、落ち着かない。
「例えば、アオイの両親が魔力を持っている人間で、何らかの形で村に住んでいたが魔力を有するが故に村人達に殺された。それによってアオイはチェスの兵隊に入った……そう考えればあいつが酷く人間を嫌う理由にもなる」
――まあ、あくまで俺の推測だがな
そう言うアシュラさんは、眉間に皺を寄せて表情を歪めさせた。もし、アシュラさんの言っていることが事実だとしたら、アオイがああなってしまった責任は自分にある……そう思っているのかもしれない。
「どうして、アシュラさんはそう思ったんですか?」
「お前らがカルデアに行っている間、俺は村に行ってみたんだ。村は六年前のウォーゲームで半壊状態といったところか。修復作業はあまり進んではいないようだった。何人か俺を覚えている人物もいたが、村人の半分以上は死んでしまったらしい」
だからカルデアに着いてこなかったのか。
「村がそうなる前は四人の家族がいて、それらは魔力を持っていたらしい。村で産まれた子供も魔力を持つようになって、自分達は酷い行いをしてしまったと言っていた」
「その子の名前は……?」
村人達が覚えていないはずもないだろう。アシュラさんのことだから、しっかり聞いてきたはずだ。あの子の名前でなければいいと思いながら、アシュラさんの言葉を待った。
「アオイ、と言うらしい」
ドクンッ、と心臓が大きく音を立てた。
2014.12.10
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