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「ん……んぅ……」
あ、起きた。
「元気そうでよかった!!」
「あまり元気じゃない。頭クラクラする」
「何十人ものチェスとやりあったらしいじゃねぇか! 無茶な野郎だぜ」
そりゃあ頭クラクラするよね。半端ない魔力の消費をしたんだろうし。もう少し早く戻ってきてあげられたらよかったんだけど。
「ファントムがいた」
「えっ!!」
ギンタの一言に、驚いて思わず声をあげてしまう。あまりにも冷静な声音だったから、更に驚いてしまう。
「ギンタ、君っ……ファントムとも戦っとったんかい!?」
「うん。負けちまった。オレは自分の力を過信してたよ」
「い、今気付いてよかったんやないの?」
「うん」
「ていうか、ファントムと戦ったらそりゃあクラクラするよ! いや、本来ならもっと酷いことになってたかもしれないんだよ!?」
「ユーリ、少し落ち着け」
「だって! だって!」
「……そういえば皆さ! ARMはもらったの?」
ドロシーの問いに全員が笑みを浮かべる。アルヴィスのおかげで私も落ち着いてから笑った。
「皆それぞれの属性のARMを頂いたよ」
本当にもらっていいのか何度も聞いてしまったけれど……。
「そうそうARMといえば、バッボについての話が途中じゃったな」
「バッボについての話?」
「チェスが襲ってくるまでバッボの話をしてたのよ」
そうだったのか。
「そもそも特殊な魔力を秘めたARMは、我々魔法使いが特別な彫金を施したアクセサリーに、その魔法をダウンロードして造る物!!」
「それがARMの正体!? 全てのARMはカルデアから生まれた!?」
「ただの武器みたいに魔力の通っていないARMなら普通の彫金師でも造れるけどね。マジックストーンも含めて、発祥の地はカルデアと言っていいわ」
「知らなかった……」
今、私達が使ってるこのARM達も、ここで造られたものなのか。
「バッボには前長老の意識が魔力と共に存在している!! つまり――「人間の意識」をもダウンロードできる唯一のARM!!」
「ワシって、この国の長老だったのか……?」
「そうじゃ」
「じゃあ偉いんだな!?」
「今はただのARM、偉くとも何とも無いわ」
ARMの中にも属性が不明のものは多い。バッボもその一種で、特別なものだとは思っていたけれど、そんなARMだなんて思わなかった。いや、思えるはずがない。
「問題は十年前のことじゃった。この国、カルデアにはこの世界すべての悪意、放たれてはならない禍々しい人間の意識を封じていたオーブがあった。ディアナはそのオーブの封を解いて、その意識をバッボにダウンロードしてこの地を捨てたのじゃ!!」
「なるほどな……それで六年前のバッボは……」
あんなに悪意に満ちていた……。
「今は、それは入っていないようじゃ。違う意識が入っているように見える。お主、半分の人格の記憶を失っておるな?」
「半分の人格!?」
お爺さんがバッボに手をかざすと、記憶が戻るように魔法をかけた。すると少し雰囲気が変わったように見える。
「お前……ギンタ、か!?」
「当たり前だろ!! 何言ってんだ、バカっ」
「……はっ。そ、そうだな!!」
私の気のせいだったのだろうか。記憶が戻るように魔法をかけると言っていたからそう思ってしまっただけ、とか?
「そういえばドロシー、アザミの行方は?」
「そっちは全く……もうずっと探しているのに、影すら見えません」
「こちらも探してはいるものの、成果はない」
「ドロシー、アザミって?」
私が問うと、お爺さんの方へ向いていたドロシーが私の方を向いた。
「カルデアにいた優秀な彫金師夫婦の娘よ。姉のように慕っていた人だった。話によれば、ある日許可を得てカルデアの外に移り住み、彫金の勉強をしていたと言う話だけれど、アザミはよくカルデアに帰ってきていたのよ」
「その人も彫金師なんスか?」
「アザミはただのARM使いだったわね。でも、徐々に帰ってこなくなり、今では連絡もない。どこに移り住んでいるのか分からないから手当たり次第に探しているんだけどね」
「ドロシーはARMを集めながら人探しもやってたんだね。その人、今はいくつなの?」
「さあ? 20代半ばくらいだと思うけど……何せ、私も小さい頃に遊んでもらっただけだったし。でも、優しくて笑顔がよく似合う人だった」
ドロシーが楽しそうに話すから、言葉通りの人なのだろう。
「ただ、一つ気になることがあって」
「気になること?」
「アザミは、ディアナと仲が良かった。ディアナはアザミを信頼していたし、アザミもディアナを信頼していた」
「え……それって……」
「そう。アザミもチェスの兵隊にいるかもしれない」
だって、優しい人だったんでしょう? そんな人がチェスの兵隊にいるなんて、会ったことないけど私には思えない。
「せめてアザミの両親に会うことができたらいいんだけど、家族揃って見つからないってことは特殊なARMで隠れているのかもしれないわ」
「なあ、ドロシー」
「なあに? ギンタン」
「そのアザミって人探して、もしチェスの兵隊だったら、ドロシーの姉ちゃんみたいに殺すのか?」
「んー……私はアザミの肉親じゃないし、彼女の両親がチェスにノータッチなら両親が殺すしかないわね……まあ、チェスの兵隊だったらの話なんだけど。アザミに限ってそんなことあるはずないし。何より、アザミは人を傷付けることが嫌いだから」
「ユーリに似てるな」
「え、そう?」
「そうそう。アザミもお人好しだったわー」
「それじゃあ私がお人好しみたい」
2014.10.30
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