雨色 | ナノ
25

その場に現れたのは、バケツの乗った雪だるまの頭に黒いマントのような布が胴体の部分を覆っている、手も足も無いガーディアンだった。それは宙を浮いており、布は風で小さく揺れる。

ジャックフロストは出てきた途端、主人であるユーリの周りをくるくると回り、広がったマントで彼女の髪や腕をつついている。そしてユーリが困ったような表情を浮かべると、声こそ出さないが笑っているような仕草をした。

「満足した? だったら、そろそろ戦ってくれると嬉しいなー……なんて」

ユーリが指差した方を見る為、ジャックフロストは頭部をくるっと回転させる。そして彼女が示した方を見ると前に出た。そしてマントが広がるとジャックフロストの周辺に鋭い氷柱が作り出され、それらが発射されていく。

「しゃらくさいねェ!! ヘアマスター!!」

ラプンツェルがヘアマスターで氷柱を砕くと、ジャックフロストはラプンツェル目掛けて飛んでいった。もう一度氷柱を作りだし、ラプンツェルに攻撃する。

それら全てを防ぐも、ジャックフロストが既に次の攻撃を準備していた。

「何だい!? 何をするつもりなんだい!? この不気味なガーディアンは!!」

高々と宙を浮いているジャックフロストは、空から落とすように氷柱を放つ。大小様々の、鋭く尖ったそれは地響きを立てて落下する。砕けた細かい氷が舞い、視界が遮られる。

ラプンツェルは何とか防いだり躱したりしていたが、大量に降り続ける氷柱に対応しきれず体に傷を作っていく。そしてドシンッと一際大きな音がして、視界が晴れてくるとそこには倒れたラプンツェルと、傷を押さえながらも立っているユーリがいた。

「ユーリVSラプンツェル!! 勝者、ユーリ!!」

「よしっ……」

小さく拳を握りしめて、彼女らしい些細な喜びに浸った。

そんなユーリの横を通っていくのはドロシーで、まだ意識のあるラプンツェルに近付いていく。それを見たユーリは不思議に思いながら、けれど後ろから声をかけてくるギンタやアルヴィスの言葉で顔をそちらに向けた。

「バトルが終わった直後で悪いけど、聞きたいことがある。ナイトクラスのお前なら知っているはずだ。答えてもらうよ」

ドロシーの言葉にラプンツェルの視線はドロシーに向く。

「“ディアナ”と言う女を知っているな?」

途端に目を見開いて、驚きを隠せないでいるラプンツェルは反射的に言葉を返した。

「な、なぜ……クイーンの名を!?」

「……やっぱりね。点と点が繋がった」

ドロシーの様子をチラチラ見ながら、ユーリはアルヴィスの話を聞き流していた。

「聞いているのか、ユーリ」

「えっ……あ、えっと」

「だから、無茶するなとあれ程言ったのにも関わらず今回もこんな大きな怪我をして、何かあったらどうするんだと言っているんだ」

「ご、ごめんなさい」

ほぼ反射的に謝るが、ユーリは決して悪いことをしたわけではない。それはアルヴィスも分かっていることだ。

「でも、生きていてよかった。勝ってよかった」

初めてアルヴィスに褒められたような気がして、ユーリは漸く勝利を実感できたような気がした。

彼女にとって、この世界は愛すべきもので、この世界の人間も愛すべきもの。しかし、その中で最も愛しているのは、目の前の少年なのだと改めて思う。彼が笑うことで、ユーリも笑みを浮かべた。

そしてポズンが4THバトルの終了を告げようとする。

「まちや!!」

それを遮る声の主はナナシだった。彼は対戦相手だったアクアを抱えており、ギロムの手で殺されてしまったアクアを水の中へ入れて、水葬する。

「安らかに眠るんやで……アクアちゃん」

そうして、今度こそ4THバトルは終了を告げた。


レギンレイヴに戻った彼らは観客達に盛大に迎えられる。ユーリは、戻ってきていたスノウにホーリーARMで傷を癒してもらい、他の面々は観客達にチヤホヤされていた。

「お前ら、今回は百点の戦い方だったぜ。特にユーリはナイトを一匹倒したからな!!」

「何を偉そうに言ってるんだよ。ユーリが傷を負った時にタバコ落としたくせに」

「お前だって強く握りすぎて手から血ィ出てんじゃねえか!!」

「うっせえ!!」

アランとアシュラの口論が始まろうとしていた時、ドロシーがアランを呼び止める。

「アラン、話がある」

アランはドロシーと話をするべく、少し離れた場所へ行き、残されたアシュラは改めてユーリの方へ向いた。

「だがまあ、いい戦い方だったと思うぞ」

「本当ですか?」

「フィールドを活かしたバトルだった。氷原ステージと言うこともあり、お前のコンディションも完璧だったからな。これで負けたら俺の鍛え方が悪かったのかと思うところだったが、そんな心配いらなかったよ」

「えっと……」

「素直に喜べ。俺はお前を褒めている」

「……ありがとうございます!!」

ユーリにとってこれ以上ない嬉しい言葉だった。

「まあ、冷や冷やする場面もあったし、治癒されたとは言え傷を作ったのも事実だ。お前はよく油断するから、その辺しっかりしないとな」

「はい!」

「えー……メルの皆様に報告があります」

アシュラがユーリの頭を撫でていると、徐にポズンが話し出す。

「明日のウォーゲームは一日延期になりました」

アルヴィスがなぜだと問えば、ファントムの命令だと答えるポズンは続けて説明をする。

「彼は明日、行きたいところがあるらしく……そうするとあなた方の戦いが観覧できないのが残念なので、そうしたようですね」

「なんて我儘な……」

「よっしゃ!! たまにはゆっくりすっか!!」

「よっしゃ!! デートや!!」

「あんたそればっかりっスなあ……」


解散し、一行が食事をしている時。真剣な声音でドロシーが話を切り出した。

「明日、私と一緒にカルデアに来てほしい」

食事をしていた面々は一斉に動きを止める。それはユーリも例外ではなく、皿に取り分けたものを食べている最中だったがドロシーに視線を移した。

「カルデア? カルデアって?」

ジャックが不思議そうに問う。

「魔法の国カルデア!! 他の国との国交を一切もたずにいる、メルヘヴンの中でも未知なる場所だ!!」

「他国の人間を受け付けようとしない怪しい民族ですよ!? 私は行きたくない!!」

「お前は来なくていいわい、犬!! 戦わないんだし」

視線をエドワードから皆に戻したドロシーは仕切り直して、改めてお願いをした。

「みんなにも関係がある大事な話がある。私を信じて来てほしい」

ドロシーの言葉にギンタは笑みを浮かべて、カルデアへ行こうと言った。


2014.10.19

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