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「ユーリ、お前、アルヴィスのこと好きだろ」
そんな問いに、ユーリは持っていたARMを落とした。それに問うた本人はやれやれと言った表情を浮かべ、彼女のARMを拾ってやる。
「もう六年くらいか? 随分長い恋じゃないか」
「アシュラさん、どうしてそんなことを……」
「まあ世間話ってやつだ。チェスのことばっかり考えて修行してもお堅い人間になっちまうからな」
アシュラにARMを渡され、律儀にも礼を言ってからそれを受け取るユーリは、アルヴィスの顔が脳裏に浮かんだ。
アシュラの言っていることは的を射ている。ユーリはアルヴィスのことが好きだった。それを否定する気もなければ、だからと言ってその気持ちを彼に伝える気はないのだが、紛れもなく彼女はアルヴィスのことが好きだった。
「アルヴィスは分かり難いところがあるからな。その点ユーリは分かりやすい」
「顔に出やすいってことですか」
「いいことだ。素直な証拠だからな。俺みたいに捻くれた奴になるよりずっといい」
ニッと笑うアシュラに、ユーリはどこか腑に落ちないながらもその場では納得した。
「で、どうなんだ? 順調か?」
「は?」
「アルヴィスとの仲だ」
ユーリには一瞬、アシュラが何を言っているのか理解できなかった。何せ、彼女はずっとアシュラの修行を受けていて、アルヴィスと再会したのもつい先日の話なのだ。それまで顔を合わせるどころか連絡を取り合うこともなく、お互いどう成長しているかも分からない状態だった。
だから、ユーリにとって彼との仲も何もないのだ。
「俺はてっきり、もうとっくに告白でもしたんだとばかり思っていたが……何も言ってないのか?」
「今はウォーゲーム中ですよ? そんな余裕ありませんよ。それに……告白してもアルヴィスを困らせるだけですし」
「いや、しかし……ユーリ、お前が髪を伸ばしている理由はアルヴィスだろう?」
「な、なんでそこまで分かるんですか!?」
「お前は分かりやすいと言ったはずだ」
思わず両手で顔を覆った。そんなユーリにアシュラは少し考える素ぶりを見せ、そして口を開く。
「なぜ言わない?」
「髪を伸ばしているのは願掛けもあります。告白しないのは、やっぱりアルヴィスを困らせてしまうだけだから、です」
「願掛け? それは、チェスを倒す為の、か」
「はい。次こそチェスを倒す為に、六年間伸ばしてきました」
「アルヴィスが理由でもあるんだろう? それは?」
どうしていきなり質問攻めにされているのか分からなかったが、ユーリは今二人以外いないことを確認してゆっくり言葉を発していく。
「アルヴィスに、髪が長いと動きにくいだろうって言われたことがあるんです」
「六年前に?」
それにコクン、と頷いた。
六年前、共に修行に励んでいた時、アルヴィスはふとユーリの髪が視界に入り、鬱陶しく思ったのだ。どうして切らないのか不思議に思っていた。そしてそれをユーリ本人に言って、不必要なら切った方がいいとアドバイスをしたのだ。
まだ幼かったユーリは、自分の髪が邪魔なのだろうと思い、その時は大人しく髪を切った。しかしその後、アルヴィスにゾンビタトゥが施され、多くの犠牲を出して戦争は終了した。
彼女は思ったのだ。自分は頑張って強くなるから、せめて祈らせてほしいと。
「六年前の戦争が終わった後、私とアシュラさんは修行に出ましたよね。だから、いいかなって思って……でも、再会した時にまた鬱陶しいって思われちゃったかなあ」
「いや、そうだな……俺の認識が甘かったかもしれない」
「はい?」
「お前達、本当は一番近いところにいるのにな」
「へ?」
* * *
「おはようございます。それでは本日より――ウォーゲームを再開させて頂きます」
ポズンがそう言うと、レギンレイヴ姫がダイスを振った。ダイスはコロコロ転がって止まる。
「六対六!! 場所は……氷原ステージ!!」
今日の人数と場所が決まった。
「六人か」
「スノウとユーリがいないからピッタリだね!」
「イヤ……今回俺は、出ねえ」
一番の実力者であるアランがそう言って、ギンタとナナシは思わず騒いでしまう。
「今回はお前達がどんくれェマシになったか見届けてやるぜ。俺がいねーと負けちまうくらいなら……その程度の戦争だったって事だ!!」
アランが睨むように言うと、ギンタもナナシも納得がいったようで笑みを浮かべた。
「やったりましょ。オッサンなんぞいらへんわ!!」
そんな彼らに近付く影が一つ――否、二つ。その気配に気付いたアルヴィスが振り返ると、そこには今までアシュラと共に修行していたユーリがいた。勿論、すぐ後ろにアシュラも立っている。
「待って、私も行く。私で六人。いいでしょ?」
「ユーリ、遅かったじゃねえか。こいつらより先に修行始めた癖によぉ」
「悪いな。俺が引き延ばした。けどまあ……今回のステージも含めて、ユーリなら無敵だろう」
ニィッと口角を上げるアシュラがユーリの肩を叩く。それが合図と言わんばかりにユーリの表情が真剣なものになっていった。
「それではこの六人を――氷原ステージへ!!」
一瞬にして一同は氷原へと移動する。薄着でいたジャックは思わず寒いと言って自分を抱きしめた。
「ユーリちゃんは平気そうやなあ」
「まあね。むしろ調子いいくらい」
ユーリはスノウと同じ氷使いだった。その為、暑さには弱いが寒さには強い。この氷原ステージは彼女にとって嬉しいステージだった。
2014.10.12
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