雨色 | ナノ
22

「くっ……!」

「反応が遅い。俺はこれでもスピードを落としているぞ」

「アシュラさん、スピードに関しては私、これより上がる気がしません」

「ふむ……確かにお前は昔に比べれば随分とスピードが上がったと思うが……これ以上は無理か?」

全ての人間がアシュラさんのような構造で出来ているわけではない。この人は、戦闘においては特別だ。

「ユーリは、そうだな……力もついて、魔力も上がって、成長したと思う。しかし、何だろうな」

「何かが足りない、ですか?」

「うーん……」

アルヴィスのように、修行しただけ吸収できると言うわけではない。ギンタのように、異世界から来たおかげで力が溢れるわけでもない。ドロシーのように魔力が高く、レアで強いARMを扱えるわけでもない。

男の子じゃないし、才能があるわけでもない。

「いや、お前も強くなっている。成長している。心配するな。俺が鍛えているんだから」

「はい……」

分かっている。私が一番、足手纏いなことを。

「そうだな。そろそろナイトの一人でも倒せれば、成長したことが証明されるかもしれんな」

「ナイト、ですか……」

「まあ、アルヴィスあたりに止められそうだがな」

ナイトに勝てたら、私の力は証明されるのだろうか。

「でも、アシュラさん」

「ん?」

「それって、私が弱いから倒さなければ証明できないってことですよね?」

ずっと思っていた。分かっていた。私は誰よりもこの世界を救いたいと自分では思っているけれど、でも、ここで戦う誰よりも私は弱いのだ。

「弱い? そんなこと、誰が言った?」

「え……」

「少なくとも、俺はお前を弱いだなんて思ったことはない。お前は強いよ。強い意志を持ち、強い気持ちで戦ってる」

「でも、それだけじゃ……」

「戦いが力だけで決着がつくと思うか? どう足掻いたって、精神面で劣っていれば負ける。でもお前は、誰よりも精神面では勝っている。それはお前の……ユーリの強さだろう」

私は今まで、自分が強いだなんて思ったことは一度もない。それは、同い年でどんどん強くなっていくアルヴィスと、年下なのに世界を背負うギンタがいて、それに追いつくよう踏ん張るジャックとスノウに、支えるドロシーとナナシ、それにアランさんがいたから。

いつだって私の周りに、強い人がいたから。

強いだなんて、初めて言われた。

「しかし、急にどうしたんだ? 今までは思ってもそんなこと言わなかったじゃないか」

「それは……」

一気に不安が襲ってきたのだ。ファントムを目の当たりにしたからなのか、或いはその前に出会ったあの女の子のせいなのか。いずれにせよ、私は足手纏いなんじゃないかと思えてしまった。

村を滅ぼされたことへの怒りは忘れていない。村人達の仇は絶対にとりたいと思う。でも、それでも、私自身が弱いのでは意味がないことに気付いてしまったのだ。

「お前が会ったというチェスの兵隊か」

「どうして……」

「何となく、だ」

アシュラさんには隠し事はできないな……いや、そもそも私が分かりやすいのかもしれない。

「ユーリ、少し話をしよう」

「は、はい」

どうしたんだろう……いきなり改まって……今までだって話はしていたし、今更改まってする話も特に思い浮かばない。アシュラさんには話すことがある、と言うことなのだろうとは思うけれど……。

「情けない話だが、俺は昔失敗したことがある」

「え?」

「随分と昔だ。まだ俺がお前らくらいの時だったかな」

「すいません。アシュラさんって歳いくつなんですか……」

「アランやガイラのことを考えれば分かるだろ?」

「いやいや! 二人はまず同い年じゃないだろうし、何よりアシュラさん、六年前と変わってないですよ!?」

何でそんなにきょとんとした表情をするんですか!

そもそも、私は六年前だってアシュラさんのことは姉のように思っていたのだ。そこまで上の年齢に思ったことなんてない。

「まあ、アランとそう変わらん。そう思っておけばいい」

嘘だ……全くそんな風に思えない。でも、今は年齢のことを気にしてはいけないのかな……話も気になるし、年齢の話は置いておいて、ここはアシュラさんの話を集中して聞こう。

「十五年以上も前の話だ。ARMの扱いはそこそこだが、俺は体力や腕力、脚力に自信はあった。そこでとある村に行った時、困っていると言うから解決してやろうと話を聞いたんだ」

「アシュラさんは私くらいの時からもう人助けをしていたんですね」

「いや、人助けじゃない。力試しだ。俺は俺自身の力を試したくて、その村に時々やってくる獣の退治を請け負った」

「獣、ですか……」

「ああ。そこで俺は腕力だけで片付けるつもりが、思ったより苦戦してな。結局ARMを使って倒したんだが……そこで強い魔力に反応する獣が山から下りてきた」

魔力に反応する獣? そんなものがいるのか……いや、ガーディアンは魔獣だとか魔人みたいなものだし、いたとしてもおかしくない。

「俺は負傷して魔力切れ、体力切れ。歩くのもやっとな状態で逃げて、その後村は魔力に反応する獣が襲いくるようになってしまった。結果的に俺は、助けるどころか守ることさえ出来なかったんだ」

「でも、元々村に来ていた獣は追っ払ったんでしょう? 依頼は獣を追い払う、だったはずですから、アシュラさんのせいというわけでは……」

「いや、ユーリ。ここは俺のせいだと言っていいんだ。お前は少し贔屓する癖があるな。物事の判断を誤らないよう気をつけろよ」

そう言われても……でも、確かにそうかもしれない。私はチェスが悪だと思うが故に、自分の仲間は皆正義だと思っているのではないだろうか。

「その村って、今も獣に?」

「さあな。俺はそれ以来その村に近付けなくなって、今どうなっているのかは分からない。風の噂では、あまりにも獣に恐怖するあまり、村人達は人殺しをしたとか」

思わずゾクッとした。だってアシュラさんは、一個人とは言わなかったのだ。“村人達”と言った。それはつまり、止める人がいなかったと言うことになる。

「カルデアに近い状態だな。余所者を受け付けないらしい。特に、魔力を有する者は尚更」


2014.10.07

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