雨色 | ナノ
21

「アザミ、これはペタ……否、アオイからだよ」

「アオイ!?」

相変わらず、アザミは妹が大好きだなあ。

「ペタが、アオイに取りに行かせたんだ。3rdバトルには出せないって頑なだったから、代わりに仕事を与えたんだろうね」

「確か3rdバトルって火山群フィールドだっけ? どうして? アオイならギンタなんてすぐ倒せるのに」

「フィールドと術者の属性には相性があるだろう? 火山群フィールドで氷属性のスノウは快調じゃなかった。それを踏まえて、アオイの属性を考えれば出すわけにもいかないよ」

「まあ……火山群フィールドなら活躍するARMもあるはずだけど、確かにそうかもしれないわね」

「で、それを判断したのはペタだ」

それを聞いたら、キミはどんな反応をするかな?

よくやった、と褒めるのかい? それとも、自分以外の人間が分かった気になるな、と独占欲を露わにするのかな? どちらにしても、キミの新しい表情を見られるなら、何だっていいよ。

「作戦参謀なだけあるね。とは言え、あの子だって最強なわけじゃない。相手だって修行しないわけじゃないんだから、早いところ出してギンタを倒してしまった方がいんじゃないの?」

なんだ、喜びも怒りもしないのか。

「ところで、ファントム」

「ん?」

「ペタはアオイの世話係だったわよね?」

「そうだよ。アオイがここに来た時からペタが面倒見てる。子守なんて柄じゃないかと思ったけど、案外仲良くやっているみたいでよかったよ」

「もしかして、アオイに手を出したりなんてしていないでしょうね?」

「んん?」

アザミには、ペタがそんな風に見えているんだろうか。流石に子供に手を出すはずもない。ペタだってそんなに困っているわけでもないだろうし。まあ、今の年齢なら話は別だけど。

「幼いアオイに手を出したら、例えアオイがここにいることを望んだとしても、私とアオイはここを出ていくわ」

「出してないよ。でも、アオイの方から来た場合はどうなるんだい?」

「は?」

うわあ、怖いなあ。その声が怖いよ。あと目も。いや、嫌いじゃないけどね。

「そうね……もしアオイが、ペタを好きだと言うのなら……その時は祝福するわ」

「へえ……驚いた。暴れまわるかと思ったよ」

「正直言うと暴れまわりたいけれど、でも、あの子は人が嫌いなのでしょう? それなのに人を好きになったのだから、喜ぶべきことだわ」

「ふーん。そう思うんだ?」

「でも、あの子はきっと幸せになれないでしょうね。ペタを好きになってしまったら」

幸せの基準は人それぞれだ。僕も、アザミも、ペタも、アオイも。しかし、ペタを好きなことでアオイが幸せになれないと言うのは僕も同意できる。

別にペタがダメなわけじゃない。そもそも、人が嫌いだと言う彼女が、人を好きになること自体が矛盾していて、彼女を構成する全てを否定しているように思えるんだ。

アオイが今生きているのは、人を嫌ったから。それ故にペタに惹かれ、僕らの仲間になった。人が嫌いだから修行して、人が嫌いだから強くなった。それなのに誰かを愛すると言うのは、好きと嫌いの板挟みになるも同然だろう。

「あ、あった。ディメンションARM――チェンジ。あらゆるモノとモノの位置を交換するARM」

袋からARMを取り出すと、目的の物を手に取って指にはめた。

「そういえば、どうしてそれが必要だったんだい?」

ただ欲しいと言う言葉を聞いて、僕はペタにお願いした。ペタは二つ返事で了承し、結果的にアオイが取ってきたのだ。アザミが欲しがったものをアザミが愛する人が取ってきたのだから、彼女も嬉しくて仕方ないのだろう。

「モノとモノの位置を交換するっていうのが魅力的だったの」

「でもそれを何に使うのか、僕もペタも分からないんだ」

「つまり、“モノ”と“モノ”を移動させるんだよ」


初めは否定的だったアザミは、だんだんと僕らに毒されている。ゆっくり、じわじわと。或いは、本来の性格がそうなのかもしれない。どちらにせよ、僕としては嬉しい限りだ。

彼女を構成するのは妹である。彼女を生かすのも殺すのも、全て妹次第だ。彼女の脳内に妹以外のことは何もない。

友人であると言うクイーンでさえ、彼女を、そして妹を産んだ両親でさえ、彼女にとっては妹――アオイを愛でる為の要素でしかないのだ。

いつだったか、どうしてそこまで妹を愛するのか問うたことがある。そんな問いに彼女は平然と、そして淡々と、至極当然に答えたのだ。「妹がアオイだったから」と。思わず目を見開いた。この僕が、だ。

彼女は妹を愛している。それは恋愛感情でもなければ通常の家族愛とも呼べない、異常なまでの妹への愛。けれど彼女は妹が好きなんじゃない。アオイが好きなのだ。アオイと言う名の妹が好きで、アオイの姉であることが彼女の誇りだった。

それを聞いて、僕は口角が上がるのを感じた。面白くて仕方なかった。それを聞いて尚、僕は彼女――アザミと言う存在に興味を抱いたのだ。

異常なまでにアオイを愛するアザミも、だからこそチェスにいるアザミも、そうして毒されていくアザミも、僕はその全てに興味を抱き、そして愛おしくすら感じる。

ああ僕も、人は嫌いなはずなのに。酷い矛盾で、酷い否定だ。


2014.10.05

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