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「クロスバスタード!!」
ウェポンか。チェスだと判断してARMを発動するまでの時間が短いところを見ると、頭の回転は速いらしい。
「待って。私は別に何かしに来たわけじゃない。不可抗力でこちらに来てしまっただけ」
冷静な視線だし、話せば分かってくれるかもしれない。
「不可抗力? おかしい。あなたはどう見てもアンダータで飛んできたように見えた!」
アンダータで飛ぶ時に言い間違えた、なんて信じるだろうか。私ならまず、信じない。じゃあ、この状況をどうやって突破する? アンダータで逃げてもいいけれど、騒がれて、それがファントムやペタの耳に入って、ウォーゲームに出られなくなるのは避けたい。
でも、こいつにしっかり顔を見られているし、私がウォーゲームに出ればすぐに分かってしまう。本当に迂闊だった。
「何が目的?」
「それは、今の私の? それともチェスの? 或いは――私個人の最終的な目的?」
「なっ……」
「ハルキが嫌いって言うのも分かる気がする。あなた、正義って表情してる。チェスが悪いって思ってるでしょ?」
「事実でしょ! チェスが国や町を破壊し、人々を殺す……チェスが悪いって思うのも仕方ないじゃない! それともあなたは、自分は悪くないって言うの!?」
うるさい声だ。まあ、ウォーゲームを見ている人達はそっちに集中して騒いでいるから、問題ないかな。
「別に、良いことをしてるとは思ってない。壊すのも殺すのもいけないことだって理解はしてる。でも、先にやったのはそっちだ」
「は?」
「先に壊したのも、殺したのもそっち」
「何言ってるの……?」
ああ、思わず溜息が出る。何も知らない良い子ちゃん。人々の悪いことは見て見ぬフリ。表立って悪いことをしている私達が一番悪いと決めつける。別に、良いことをしているとは思ってないけれど、それってただの贔屓じゃないの。
「もっと人間のことを観察するべきなんじゃない? 人間の悪いところ、一つも言えないでしょ?」
「そんなこと……あなた達以上に悪い人なんてこの世にはいない!」
「それ。ハルキも、そして私も、あなたを嫌う理由はそれだよ」
「別にチェスに好かれたいなんて思ってない!!」
「私とあなたじゃ分かり合えないみたいね」
ネイチャーARM――スノーストームを発動する。単なる目くらましだ。今のうちに逃げてしまおう。顔が見られたとかもう気にしない。
「逃がさない!」
後ろに逃げようとすると、ドンッと壁のようなものにぶつかった。右に行っても左に行っても壁。しかもひんやり……否、こちらが凍り付いてしまいそうな程冷たい。もしかしてこれは、氷の壁。
「どうしてここに来たのか話して!」
そういえば、ハルキとのバトルでも使っていたっけ。一枚しか出せないんだと思っていたけれど、複数出せるのか。
「ここに来たのは本当に不可抗力……と言うより私のミス。何かしようとしたわけじゃない。証拠に、あなたがウェポンを発動したのに私は発動しなかったでしょう?」
「そんなこと、信じられるわけが、」
「アンダータ! レスターヴァ城へ!」
「待て!」
囲むように壁を作ったって、アンダータを使えば逃げ切れる。アンダータで飛んできたと分かっていたのに覚えていなかったのだろうか。
「遅かったな」
「ごめんなさい。実は不可抗力でレギンレイヴに行ってしまって……」
「レギンレイヴ? 何か用でもあったのか?」
「いや、言い間違えた」
「は?」
ペタが眉を顰めた。
私だって予想できなかったことだ。アンダータを使っているのに間違った町に行ってしまうなんて……そこで、メルの女と出会ってしまうのも、予想できるはずがない。
でも、それを言ったってただの言い訳で、事実だろうが何だろうが私のミスだ。
「ごめんなさい……戦闘になりそうだったから逃げてきた」
「いや、それは構わん。無駄な戦闘は避けるべきだ」
よかった。
「ARMは収集できたのか?」
「うん。途中、盗賊だかトレジャーハンターだかに会ったけれど、殆ど回収したと思う。必要だったのに無いってARMがあったら言って。もう一度取りに行くから」
今度は間違えない。絶対に。
「いや、ざっと確認したら問題は無さそうだ」
「でも、このARMは一体誰が使うの?」
ウォーゲームはもう始まっている。不慣れなARMを使う程、メルをなめているわけでもないだろう。それでも、ARMの収集に行かせた理由は一体何だったのだろうか。
「チェンジ、というARMは知っているか?」
「いや、知らないけど……」
「ディメンションARMだ。今日お前がこれを取りに行ったところに、それは隠されていた」
つまり、ペタはそのチェンジというARMが欲しかった、ということ?
「あらゆるモノとモノを移動させる」
「つまり、モノとモノの位置を交換するってこと?」
「そういうことだ。それが物であれ人であれ、何でも、な」
「でも、そんなARMがバトルに使えるの?」
遠距離の攻撃を相手がしてきて、それを自分ではなく相手に受けさせるとか……でも少しまどろっこしい。私の戦い方には合わないだろう。恐らくペタの戦い方にも合わないはずだ。
「バトルに使うかは本人次第だな。ただ、これをそいつが欲しがっていたから、ファントムが取ってこいと言ったんだ」
そいつとかファントムとか、結局ペタが使うものではないってことか。
「今日はご苦労だった。明日は休みだからゆっくり休むといい」
「いや、修練の門を使って」
「まだ修行するのか?」
「怠けたらいけない。時間も、修練の門の中にいた方が多いし、休むことだってできる」
今日会った女、ハルキとのバトルで見た時と雰囲気が変わっていた。体がボロボロだったし、恐らく彼女も修行していたんだろう。ハルキとのバトル後、やけに納得のいっていない顔をしていたから当然と言えば当然かもしれない。
そのせいだろうか……動いていないと落ち着かない。動かないとスッキリしない。それなら修行するべきだ。私はウォーゲームに出るのだから。
2014.09.28
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