18
「ウォーゲーム中だって言うのに、こんなに盗賊がいるなんて思わなかった」
思わず溜息も出てしまう。まさか、こんなところでバトルになるなんて予想もできなかったのだから。
ARMは持っていたし、そもそも苦戦するような相手じゃなかったからいいけれど、私はもっと考えて動くべきかな。
「き、さま……何者だ……」
息絶え絶えでよく言葉を話せるものだ。その辺は感心する。感心したから答えてもいいか。
「チェスの兵隊」
まあ、自分の名前を名乗るつもりは毛頭ないけれど。
* * *
「ARMの調達ね」
「ああ。そこにあるARMを粗方取ってきてくれればいい」
「分かった。行ってくる」
私はまだバトルに出させてもらえない。理由は分からないけれど、とにかく今日はダメらしいことは聞いた。ペタが頑なにダメだと言うのだ。
ロランと同じフィールドで戦ってみたかったのに。残念。
そう思っていれば、ペタから仕事を言い渡された。ARMの調達――よくやっている仕事だ。それ程難しくもない。そもそも、ペタは私一人でこなせない仕事を押し付けることはないのだけれど。その理由はやっぱり、私が弱いことにあるのだと思う。
色々思うことはあるけれど、今は仕事だ。ARMを持って、ローブを着て、アンダータで一番近い町まで移動した。
「細かい道までは分からないって言ってたから、自分でウロウロして見つけなきゃいけないみたいね」
入ってしまった後は、地図に細かい道を書き込みながら進んでいく。取り残したARMがあった場合、再びやってきた時に書き込んだ地図が役に立つからだ。
暫く歩くと、いくつかARMを見つけて袋に詰め込んだ。どういった能力のARMかまでは判断できないけれど、こんなところにあるARMだ。凄まじい力を持っているか、全く力のないものか、そのどちらかだろう。
しかし、広いところだ。まだ半分も歩いていないんじゃないだろうか。まだ半分にも満たないのに、もう別の人と会うとは思わなかった。
「こんなところに来る人は、俺達と同じか、方向音痴ってところだな」
下卑た笑みを浮かべる奴らだ。イライラする。
「よく見ると女じゃねえか。ふむ……ここはあれでいこう」
「そうしよう」
ARMを発動し、私目掛けて攻撃してくる。それをギリギリのところで躱して見せれば、男達は攻撃を一度やめた。
「どうやら同業者らしいな」
「それなら、持っている袋を置いてもらおうか」
「そしたら痛い目見ないで済むぜ」
それを素直にきくのなら、こんなところにいないと思うのだけれど。
「こっちも仕事なんで」
「そりゃあ、俺達の台詞だ!」
「ネイチャーARM――スノーストーム」
その場に吹雪が吹き荒れる。視界を遮られた男達は動きを止め、その隙に私は前へ進んだ。
「大体見たかな……取り残しがあったらまた来なきゃいけないわけだし、出来れば今日中に終わらせてしまいたい」
風が吹いてくる。少し熱いな。これは、熱風……。
「どうだ! 俺のホットブラストの威力はぁ!」
こっちが吹雪なら、あっちは熱風ってことね。面白い。同じネイチャーARM使いなら相性もあるし、雪を使った私に熱で攻撃するのも当然のことだろう。どうやら馬鹿ではないらしい。
「でも、残念だったね」
「ああん?」
「私は、水使いだ」
そう言ってローブの袖を捲り、ブレスレットを見せつけた。
「ネイチャーARM――クリスタロス」
これだけ暴れて、他にARMも見当たらないしこれ以上探しても無駄だろう。ウォーゲーム中でもこうして盗賊が来たり、トレジャーハンターのような輩がいるのだから、案外チェスの兵隊は世界を揺るがしていないのかもしれない。
そんなこと言ったら怒られてしまうか。
最後の一人も始末したし、帰ろう。そういえば、今は3rdバトルの真っ最中だっけ。早く帰ってロランの応援でもしてあげよう。そういえば、1stバトルのギンタのガーディアン、あれは面白かった。バトルしてみたいけれど、ギンタと戦うのっていつもその時のバトルに出るチェス側のリーダー格だし、私では無理かな。レギンレイヴでこっそり見ただけだし、もっと近くで見たかった。
「アンダータ、レギンレイヴへ!」
え?
思っていることを口にする程馬鹿になったつもりはない。けれど、脳裏に浮かぶレギンレイヴでのバトルがあまりにも鮮明で、思わず行き先をレギンレイヴにしてしまった。
幸い人の少ないところだ。人々が集合している場所からはずれた位置に飛んでくれて助かった。
「うわ、吃驚した!」
人の気配と声に、思わず驚いて振り返る。
「そのピアス……あなた、チェスの兵隊!!」
こいつ、2ndバトルでハルキと戦っていた女だ。まさかこんなところにいるなんて思わなかった。どうして今日は、こんなに人と出会ってしまうのだろう。
2014.09.25
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