17
「無理はするなと言ったはずだ!」
それが、砂漠地帯から帰ってきた時の、私への第一声だった。
「でも、結果的には勝てたし……」
「それでも無理はするなとあれほど……!」
「まあまあ。アルちゃん。勝てたんやからええやん」
「ナナシは負けたけどな」
「アルヴィスってば!」
確かに、私のバトルはギリギリだった。絞り出した魔力でなんとかガーディアンを出せたけれど、あれ以上攻撃を食らっていたらガーディアンどころかネイチャーすら使えなかった可能性もある。
勝利を確信した相手の子――ハルキが隙を見せたから勝てたようなものだ。
2ndバトルに勝ったお祝いを兼ねて宴が開かれる。六年前にもあったこと。この時は本当に楽しくて、笑顔が溢れ返るんだ。
「ふふ……なつかしい感じだのぉ」
「ん? なにがスか? ガイラさん!」
「六年前のウォーゲームの時もな……こうやって、勝った日は皆で酒なんぞくみかわして笑っていたのだ」
「覚えています」
私も覚えている。忘れるはずがない。
「あの時は……ダンナさんが「俺は違う世界から来た」って、その世界の話をたくさんしていましたよね! 本を書いてるっていう奥さんの話や――自分の子供の話」
楽しくて仕方なかった。温かくて、本当に優しかった。
気付けば皆がダンナさんに関する思い出話に浸っている。それ程までに、ダンナさんは人々から愛されていたのだ。私だって、何度助けられたことだろう。何度救われたことだろう。どんなに感謝しても足りない。
「バッボ!!」
話を聞いていたであろうギンタが、バッボのジョッキを奪い取ってグイッと中身を飲み干す。それってもしかして、お酒なんじゃあ……。
「この世界はオレ達が守るんだ!! いいか!? オレ達は必ず勝つ!!」
大きな声を上げて宣言する。
「ダンナの息子が言ってんだ。信じろ!!」
その言葉に周りの人々は驚く。しかしギンタは酒が回ったのか倒れ込んでしまった。
「やっぱ子供にお酒はいかーん!!」
お酒は大人になるまで飲んではいけないよね。
「また元気なガキが多いなあ」
「その声、アシュラさん!?」
思わず振り返ると、そこには見覚えのある人がボロボロな様子で立っていた。
「アシュラ!?」
「あの、アシュラか!?」
周りもざわめく。六年前のウォーゲームで、私達と同じクロスガードとして戦ったアシュラさんだ。有名なのも不思議ではない。
「アシュラ! 遅いではないか!」
「悪いな、ガイラ。道に迷ってたら獣に見つかって追いかけられて戦ったら崖から落ちた」
「死にかけているではないか!!」
「骨折とかしなくてよかったよ。切り傷や擦り傷だけで、なんとかここまで来れたんだが……もうウォーゲームは始まっちまったみたいだな」
「ああ。お前がいれば、かなりの戦力になったのに……」
「まあ、今回は俺も、そしてガイラ――お前も運が無かった。ただそれだけだ」
やっぱり、何か理由がないと来ないはずがないと思っていた。ちゃんと向かっていたんだ。アシュラさんは、このレギンレイヴに。
「ユーリ、今日のバトル見ていたぞ」
「あ……」
「ユーリにしては上出来だ」
「本当ですか!?」
「だが、俺の弟子にしては、まだまだだ」
やっぱり。まだ弱い。
「フィールドに関しては俺も予想外だった。厳しい中でよく戦ったと言える。しかし俺も、お前自身も納得がいっていない。そうだろう?」
「はい!」
「なら、とことん付き合ってやる。遅れた詫びだ。ガイラ、それにメルのキャプテンは……アルヴィスか?」
「いえ、俺じゃなくて、ここで倒れてるギンタです」
「そうか。じゃあ後でこいつにも言っておいてくれ」
ギンタを見てニッと笑うと、アシュラさんは言った。
「ユーリを少し借りるぞ」
私の腕を引いて歩き出す。
「ここでいいか。ガイラには後で伝えられるし、問題ないだろう」
立ち止まると手が離され、アシュラさんと向き合う形になった。そしてアシュラさんは私をじっと見つめる。
「今回のバトルで、お前は何を思った?」
「相手に先制攻撃を許してしまったこと、相手の素早さに反応できず、ARMの発動が遅れたこと、それらは私の失態です」
「そうだな。それに、反応できていれば鎖に繋がれずに済んだだろうな」
「はい」
「でも、相手の隙をついて飛び込んだのは上出来。選んだARMもよかった。褒めるべきところは沢山あったぞ」
「ありがとうございます!」
「では、そろそろ始めよう。疲れているだろうから初めは休息だ。その後から修行を開始する」
そう言って、アシュラさんは修練の門を開いた。
2014.09.21
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