16
2ndバトルはメルの勝利で終わった。私としては、最後に出てきた魔女が気になるところだ。高い魔力、強いARM、それらを使いこなす彼女はどれ程強いのだろう。
「アオイ。確かお前、ハルキと仲が良かったな」
「仲が良いと言う程でもないけれど、まあ話くらいなら」
「あいつはどうだ? どうしてもとファントムに直談判しに来たから出したが……」
「よく分からない。戦ったことはないし、彼女は私に敵意を見せないから」
「そうか」
「ただ、正義面した人が嫌いなんだとは言っていたよ」
「正義面、か」
ハルキの戦いを見て思ったのは、彼女は純粋に戦うことが好き過ぎたのだと言うこと。嫌いな相手を倒すのが好きだとしても、根本的に戦いを好むとそうなる。
相手の女が麻痺効果のある水を使う前に仕留めなければいけなかった。戦いを楽しみ過ぎたのだ。
「馬鹿はどっちだったのかしらね……」
戦いながら、相手の女は冷静だった。ダメージを受けながらもハルキの隙を窺っていた。懐に飛び込んだのだって、勝利を確信してしまったハルキに隙があったからだ。
ウォーゲーム中、まだ試合に出ていない私はペタの仕事を手伝うことも少なくない。
ARMの調達、食料の調達、3rdバトルに出る為にロランの相手を少ししたくらいだけれど、それでもペタの仕事は減らないし、むしろ増える一方なんじゃないかと思えてくる。
毎日毎日、ギンタと戦わせろと言う奴らが多い。1stバトルでのガーディアンがスイッチになったのか、好戦的と言うか、血の気の多いチェスの兵隊なら大多数が彼と戦いたいと思ったのだろう。
ダイスを振って出た目の数が参加人数とフィールドを決めるから、毎回誰を出すか決めるのに大変そうだ。それさえも手伝えたらいいのだけれど、私の意見では参考にならないだろう。
「アオイ、そろそろお前は休憩しろ。もうずっと手伝わせているからな」
「でも、ペタは?」
「私はもう少しやっている」
休憩だってまともに取っていないのに、どうしてそんなに頑張るのか。
全部、ファントムの為だって知っている。ファントムがウォーゲームで勝つ為に、彼はどんな手間も惜しまないし、手抜きをしない。
「じゃあちょっとだけ休んでるね」
今のペタに、私の言葉なんて届くはずもない。
私が出来ることと言えば、甘いものを作ってあげることくらいだ。糖分を取れば少しは疲れを癒せるだろう。食べる時間が無い、なんて言いそうだけれど、その時は無理矢理にでも食べさせる。例えペタに嫌われようとも、無理するペタは私が見たくない。
別に、私の村を破壊した時の、余裕そうなペタが好きってわけじゃない。勿論、そんな彼も好きだし、そんな彼を見たからこそ、私は彼を好きになったのだけれど……それでも、無理はダメだ。
そう思いながら、厨房へやってくると封鎖されていた。一体どういうことだろう。
「おお、アオイ。どうしたんだい?」
「アッシュ……どうして厨房が封鎖しているの?」
「この間、とある人が厨房に入って破壊したらしいぜ」
厨房に一体何の恨みがあって破壊なんてしたんだろうか。これでは甘いものが作れないじゃないか。
「食材とかは無事だったから、今はもう一つの厨房使ってるけど、あっちは狭いらしいからあんまり出入りできないみたいだよ」
いつも私が厨房でお菓子を作っているのを知っているアッシュは、優しく私に教えてくれた。彼はチェスの兵隊の中でも少し異質だと思う。まあ、それでもアッシュは憎めないんだけれど。
「厨房に何の恨みが……」
「恨み?」
「だって破壊活動なんかして……」
「いやいや。彼女は恨みがあって厨房を破壊したわけじゃないさ」
彼女? やったのは女性なの?
「なんか、お菓子を作ろうとして、色々間違えて、結果破壊したって聞いたよ」
「結果はもう知ってる、過程を詳しく知りたい」
「俺も見てたわけじゃないからなあ」
でも、封鎖されるまで破壊するなんて、何をしたんだろうか。分量を間違えたり火力を間違えるだけなら大した問題にならないと思うのだけれど。
チェスの兵隊だから、色んな人がいてもおかしくないし、料理のできない女性も多分沢山いるんだろうけれど、それでも、やっぱりここまで酷い人はそうそういない。
「そういえば、アオイはいつもお菓子を作ってるけど、今日はどうするんだい?」
「どうしよう……」
折角ペタに、休んでもらう口実だったのに。これじゃあうまくいかないかもしれない。
最初から諦めるなんてよくないのかもしれないけれど、どう足掻いても甘いものの他にペタを釣る餌なんて思いうかばないのだ。ああもう、どうして厨房が使えないの? 壊されているからだけど。
「ペタが仕事しすぎてるんだろ? 一応俺からも休むよう言っておくよ」
「ありがとう、アッシュ」
ああ、彼は本当に優しい。まるで父親みたいだ。ある意味では、アッシュが第二の父みたいなところもあるけれど。
「アオイもちゃんと休めよ? 最近顔色が悪いってロランが言ってたぞ」
それはペタの仕事を手伝っていたからだろうか。それでも、ペタよりずっと私は楽だ。手伝っているだけなんだから。
2014.09.14
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