雨色 | ナノ
14

「うっぐっ……!」

相手の力に体勢を低くする。それでも力は弱まることを知らず、着実にユーリの体力を減らしていった。


* * *


ウォーゲーム2ndバトルが始まる日に、ユーリは昨日のバトルを思い浮かべていた。三対三のバトルで、ギンタ、ジャック、アルヴィスの三人が戦った。

自分よりも力が上である三人のバトルを鮮明に思い出し、今日ある自分のバトルに活かす。それがユーリに出来ることだった。

彼女はチームの中で弱いに分類されることを自覚している。それは、出会った人々の力を見てきたからこそ、そう思えていた。しかし、自分も戦う以上、自分は弱いと思っていては勝てるものも勝てない。だからユーリは、自己暗示をする。

自分は強い。チェスの兵隊に勝てる。そう思い込むのだ。

「さて、本日のウォーゲームのメンバーはこの四人ですか! 昨日とは全く違うメンバーですね」

スノウ、ナナシ、ドロシー、そしてユーリの四人が2ndバトルに出ることになった。

「なぜ俺が入っていない!?」

「アルちゃん、昨日思いっきし暴れたやん!! 今日は自分らに暴れさせて!!」

「結局、ギンタとジャックは帰ってこなかったな! 今頃、どこで何をしているんだ」

「あの二人のことだから、またどっかで修行よ!! 安心なさいな!!」

「そっ。今日は私達にまかせて!!」

ドロシーとスノウがそう言うが、アルヴィスの心配はただ一人へ向けられていた。自分と共にクロスガードに入って、六年前にも戦争の恐怖を味わっている彼女。それは、自分達が思う以上のトラウマを植え付けているはずだった。

「ユーリ、大丈夫か?」

「ん? 大丈夫! 私だって修行したし、この間も修練の門に入ったからね!」

「いや、そうじゃなくて……無理はするなよ」

「無理じゃないよ。私は勝てる。絶対勝つの」

ユーリがどんなに力強く「大丈夫」と言っても、アルヴィスには心配の要素でしかなかった。幼い頃から共にいて、暫く会っていなかったにしても、アルヴィスには分かる。彼女にはとてつもない恐怖が襲いかかっていることを。

幼い時に大切なものを目の前で亡くし、トラウマを植え付けられてしまったが故に、ユーリにとってこのウォーゲームは恐怖そのものだったはずだ。それでも彼女がここに立っているのは、自分の故郷を滅ぼされたことへの怒りと、世界を守りたいと言う思いがあってこそだった。

「それでは、あなた方を本日の舞台へお連れします。用意はいいですね?」

進行役のポズンが腕を振り上げる。

「アンダータ!! 砂漠フィールドへ!!」

一瞬にして景色が変わり、飛ばされた人々の視界いっぱいに広がる砂漠地帯。思わず声を上げてしまう程である。

「わっ……!」

「うひゃっ! 広いのぉーっ!! ここで戦うんかいな!?」

「暴れがいがあるじゃなーい」

「それにしたって、わざわざこんなところ用意したのかな?」

「ユーリ、そこ気にするところ?」

「出でよ!! チェスの兵隊!!」

メル側の言葉を聞き流し、ポズンはチェスの兵隊を呼び出す。それにより個性的なチェスの兵隊が四人、現れた。

「マイラ!! ロコ!! フーギ!! ハルキ!!」

「よっしゃ、出てきたで!! まずは自分が……」

「ちょっと待って!!」

ナナシが意気込んだところをスノウが遮る。そして深呼吸をして体を動かすと、自分が行くと言いだした。それにナナシは逆らえず、スノウに先を譲ってしまう。

彼女の相手は仮面を被り、髪の毛が円を描くようにバラバラになっている男だった。

「あの髪型、どういう構造をしているんだろう?」

「ユーリって変なところに目がいくわよね」

「そう? 純粋な疑問のつもりなんだけど」

しかし、ユーリにとって最も気になるのは、自分の方を向いてにっこり笑っている少女の方だった。彼女とユーリは面識などない。それ故に、ユーリはどうしてこちらを見られているのか不思議で仕方なかった。

見定めているのかもしれない。そう思いつつ、警戒を解かずにスノウを応援する。

自分より小さな女の子が、大きなものを背負って戦っている。それだけでユーリは、彼女を応援せずにはいられなかった。何より、彼女が使うARMが、自分との共通点として贔屓目に見てしまうのだ。

スノウはフーギの攻撃を軽々と躱しつつ、自分も攻撃していく。


フィールドの問題か、スノウは苦戦を強いられるも、彼女の粘り勝ちか勝利を収めた。

その次は、相手からロコが、メルからはナナシが出てバトルが始まる。こちらも、彼がレディーファーストを宣言したばかりに苦戦を強いられ、ギリギリまで粘るが最後の攻撃を、自分を縛りつけていた藁人形に当てて倒れてしまった。

そして次は、ずっと警戒し、脳内で昨日のバトルを繰り広げ、そして自分のチームを応援していたユーリが前に出る。

「次、私行くね」

すると相手からは、まるで待ち望んでいたかのように少女が前へ出てきた。ずっとユーリを見ていたハルキと言う名の少女だ。

やっぱり来たか、とユーリは思いつつ彼女を見据える。

「メル、ユーリ!! チェスの兵隊ビショップ、ハルキ!! 第三試合――始め!!」

ポズンの声を聞き終えると、ハルキはすぐに走り出してユーリとの間合いを詰める。それに驚いたユーリは少し反応が遅れ、ハルキの攻撃が直撃してしまった。

「うあっ……!」

「あなたと戦うのかなって思ってた。だって、わたしの嫌いなにおいがするんだもん」

ハルキは距離を取るとARMを構え、発動した。

「ウェポンARM、チェーンブレスレット!」

ハルキの両手から鎖が伸びてくる。それらはユーリ目掛けて飛んでいき、彼女を攻撃した。そして両手に巻きつき動きを制限する。

「嫌いなにおいって……シャンプー変えたからかな……」

「そんな話をしてるんじゃないよ。ばかだなあ」

「くっ……外れない……」

「ちょっとやそっとじゃ外れないよ」

グイッと引っ張ると、ユーリはその勢いに抗えず地面に倒れてしまう。それをズルズルと引っ張り、ある程度の距離まで近付けるとユーリの体を蹴り上げた。

「わたしはね、自分の体で戦うのがすき」

蹴り上げられたことで体勢を戻すと、腕と動体を一体化させるように鎖が巻きついた。

「つよい人と戦うのもすき。でもあなたからは、つよくても嫌いなにおいがする」

「そんなの知らない!」

「愚者の杖!」

別のARMを発動し、それでユーリの腹部を殴っていく。

「ユーリ!!」

「しっかりしなさい! ユーリ!!」

後ろで見ているスノウやドロシーが声をかけるも、ユーリはそれを聞いているだけで返事はしなかった。

「ねえ、そのARM、本当は物理攻撃用じゃあないんじゃないの?」

「えっ」

「マジックストーンがついてる。それはその杖で他に何かできるということ」

「よく、気付いたね。ご褒美に見せてあげる。フレイム!!」

杖の先端についていたマジックストーンが光を放ち、そして炎を繰り出した。それは真っ直ぐユーリに攻撃していく。

「うっぐっ……!」

相手の力に体勢を低くする。それでも力は弱まることを知らず、着実にユーリの体力を減らしていった。


2014.08.30

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