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「うっぐっ……!」
相手の力に体勢を低くする。それでも力は弱まることを知らず、着実にユーリの体力を減らしていった。
* * *
ウォーゲーム2ndバトルが始まる日に、ユーリは昨日のバトルを思い浮かべていた。三対三のバトルで、ギンタ、ジャック、アルヴィスの三人が戦った。
自分よりも力が上である三人のバトルを鮮明に思い出し、今日ある自分のバトルに活かす。それがユーリに出来ることだった。
彼女はチームの中で弱いに分類されることを自覚している。それは、出会った人々の力を見てきたからこそ、そう思えていた。しかし、自分も戦う以上、自分は弱いと思っていては勝てるものも勝てない。だからユーリは、自己暗示をする。
自分は強い。チェスの兵隊に勝てる。そう思い込むのだ。
「さて、本日のウォーゲームのメンバーはこの四人ですか! 昨日とは全く違うメンバーですね」
スノウ、ナナシ、ドロシー、そしてユーリの四人が2ndバトルに出ることになった。
「なぜ俺が入っていない!?」
「アルちゃん、昨日思いっきし暴れたやん!! 今日は自分らに暴れさせて!!」
「結局、ギンタとジャックは帰ってこなかったな! 今頃、どこで何をしているんだ」
「あの二人のことだから、またどっかで修行よ!! 安心なさいな!!」
「そっ。今日は私達にまかせて!!」
ドロシーとスノウがそう言うが、アルヴィスの心配はただ一人へ向けられていた。自分と共にクロスガードに入って、六年前にも戦争の恐怖を味わっている彼女。それは、自分達が思う以上のトラウマを植え付けているはずだった。
「ユーリ、大丈夫か?」
「ん? 大丈夫! 私だって修行したし、この間も修練の門に入ったからね!」
「いや、そうじゃなくて……無理はするなよ」
「無理じゃないよ。私は勝てる。絶対勝つの」
ユーリがどんなに力強く「大丈夫」と言っても、アルヴィスには心配の要素でしかなかった。幼い頃から共にいて、暫く会っていなかったにしても、アルヴィスには分かる。彼女にはとてつもない恐怖が襲いかかっていることを。
幼い時に大切なものを目の前で亡くし、トラウマを植え付けられてしまったが故に、ユーリにとってこのウォーゲームは恐怖そのものだったはずだ。それでも彼女がここに立っているのは、自分の故郷を滅ぼされたことへの怒りと、世界を守りたいと言う思いがあってこそだった。
「それでは、あなた方を本日の舞台へお連れします。用意はいいですね?」
進行役のポズンが腕を振り上げる。
「アンダータ!! 砂漠フィールドへ!!」
一瞬にして景色が変わり、飛ばされた人々の視界いっぱいに広がる砂漠地帯。思わず声を上げてしまう程である。
「わっ……!」
「うひゃっ! 広いのぉーっ!! ここで戦うんかいな!?」
「暴れがいがあるじゃなーい」
「それにしたって、わざわざこんなところ用意したのかな?」
「ユーリ、そこ気にするところ?」
「出でよ!! チェスの兵隊!!」
メル側の言葉を聞き流し、ポズンはチェスの兵隊を呼び出す。それにより個性的なチェスの兵隊が四人、現れた。
「マイラ!! ロコ!! フーギ!! ハルキ!!」
「よっしゃ、出てきたで!! まずは自分が……」
「ちょっと待って!!」
ナナシが意気込んだところをスノウが遮る。そして深呼吸をして体を動かすと、自分が行くと言いだした。それにナナシは逆らえず、スノウに先を譲ってしまう。
彼女の相手は仮面を被り、髪の毛が円を描くようにバラバラになっている男だった。
「あの髪型、どういう構造をしているんだろう?」
「ユーリって変なところに目がいくわよね」
「そう? 純粋な疑問のつもりなんだけど」
しかし、ユーリにとって最も気になるのは、自分の方を向いてにっこり笑っている少女の方だった。彼女とユーリは面識などない。それ故に、ユーリはどうしてこちらを見られているのか不思議で仕方なかった。
見定めているのかもしれない。そう思いつつ、警戒を解かずにスノウを応援する。
自分より小さな女の子が、大きなものを背負って戦っている。それだけでユーリは、彼女を応援せずにはいられなかった。何より、彼女が使うARMが、自分との共通点として贔屓目に見てしまうのだ。
スノウはフーギの攻撃を軽々と躱しつつ、自分も攻撃していく。
フィールドの問題か、スノウは苦戦を強いられるも、彼女の粘り勝ちか勝利を収めた。
その次は、相手からロコが、メルからはナナシが出てバトルが始まる。こちらも、彼がレディーファーストを宣言したばかりに苦戦を強いられ、ギリギリまで粘るが最後の攻撃を、自分を縛りつけていた藁人形に当てて倒れてしまった。
そして次は、ずっと警戒し、脳内で昨日のバトルを繰り広げ、そして自分のチームを応援していたユーリが前に出る。
「次、私行くね」
すると相手からは、まるで待ち望んでいたかのように少女が前へ出てきた。ずっとユーリを見ていたハルキと言う名の少女だ。
やっぱり来たか、とユーリは思いつつ彼女を見据える。
「メル、ユーリ!! チェスの兵隊ビショップ、ハルキ!! 第三試合――始め!!」
ポズンの声を聞き終えると、ハルキはすぐに走り出してユーリとの間合いを詰める。それに驚いたユーリは少し反応が遅れ、ハルキの攻撃が直撃してしまった。
「うあっ……!」
「あなたと戦うのかなって思ってた。だって、わたしの嫌いなにおいがするんだもん」
ハルキは距離を取るとARMを構え、発動した。
「ウェポンARM、チェーンブレスレット!」
ハルキの両手から鎖が伸びてくる。それらはユーリ目掛けて飛んでいき、彼女を攻撃した。そして両手に巻きつき動きを制限する。
「嫌いなにおいって……シャンプー変えたからかな……」
「そんな話をしてるんじゃないよ。ばかだなあ」
「くっ……外れない……」
「ちょっとやそっとじゃ外れないよ」
グイッと引っ張ると、ユーリはその勢いに抗えず地面に倒れてしまう。それをズルズルと引っ張り、ある程度の距離まで近付けるとユーリの体を蹴り上げた。
「わたしはね、自分の体で戦うのがすき」
蹴り上げられたことで体勢を戻すと、腕と動体を一体化させるように鎖が巻きついた。
「つよい人と戦うのもすき。でもあなたからは、つよくても嫌いなにおいがする」
「そんなの知らない!」
「愚者の杖!」
別のARMを発動し、それでユーリの腹部を殴っていく。
「ユーリ!!」
「しっかりしなさい! ユーリ!!」
後ろで見ているスノウやドロシーが声をかけるも、ユーリはそれを聞いているだけで返事はしなかった。
「ねえ、そのARM、本当は物理攻撃用じゃあないんじゃないの?」
「えっ」
「マジックストーンがついてる。それはその杖で他に何かできるということ」
「よく、気付いたね。ご褒美に見せてあげる。フレイム!!」
杖の先端についていたマジックストーンが光を放ち、そして炎を繰り出した。それは真っ直ぐユーリに攻撃していく。
「うっぐっ……!」
相手の力に体勢を低くする。それでも力は弱まることを知らず、着実にユーリの体力を減らしていった。
2014.08.30
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