雨色 | ナノ
12

「アルヴィス!」

「ユーリ、来たのか」

「勿論!」

レギンレイヴにやってくると、アルヴィスに再会した。ウォーゲームが開催されると聞いて、絶対に来ると思っていたからホッと安心する。他にも見知った顔を見つけるけれどただ一人――私の師匠であるアシュラさんは見つけられなかった。


「お集まり頂いた皆様、ようこそレギンレイヴへ」

私もよく知るクロスガードに、私達「メル」の一行。それらがここ、レギンレイヴに集まる理由はただ一つ――ウォーゲームでチェスを倒す為。

ウォーゲームはチェスの兵隊が持ちかけたゲーム。戦争だ。一方的に破壊や殺戮を繰り広げた後に、再び人を殺す為、ARMを奪う為、何より自分達の強さをひけらかす為に行われるゲーム。

私はこのウォーゲームが心底嫌いだ。私の大切な人達を沢山奪った。前回はダンナさんやアランさん達のおかげで何とか勝利したけれど、だからこそチェスの兵隊は今度こそ私達を殺しにかかってくるだろう。

私達が集まったレギンレイヴは、既にチェスの手中に落ちてしまっている。姫と呼ばれる人は民を守る為に仕方なかったのだろう。場所の提供がチェス側と言うのが少し不安ではあるけれど、大丈夫。こっちだって前回かなりの犠牲者を出している。だから、今度こそ私達はチェスを倒すんだ。

「今より、ウォーゲームを開催致します。その前に、このゲームをするに相応しき者かテストを行います」

参加者それぞれが台に置かれているマジックストーンを手に取った。私も勿論それを手にする。

「テスト、開始」

悲しそうに、辛そうに、レギンレイヴのお姫様はそう言った。その瞬間、マジックストーンが光って景色が変わる。真っ暗で、自分以外は何も見えない場所に移された。

そう思っていれば、自分以外の人間の気配を感じて振り返る。そこには仮面を被った人物が武器を持って立っていて、私に近付いてきた。

「このポーンを倒せってことね」

相手の一撃をかわして、こちらもARMを発動する。

「ネイチャーARM――レド・リング!」

相手が武器を振りかぶったところをついて、氷の壁を出現させる。それに勢いよくぶつかったポーンは倒れてしまった。

テストが終わったのか、元いた場所に戻される。アルヴィスやギンタ、ジャックが既に戻っていて、すぐにスノウやドロシー、ナナシも戻ってきた。

「ん? どうした、アルヴィス?」

「クロスガードが一人も帰ってこない……ガイラさんまでが!!」

確かに、まだ帰ってきていない。あのガイラさんがポーンに苦戦するはずもないし、おかしい。そう思っていると、戻ってくる気配がした。

「なんだよ、帰ってきたじゃん!!」

「あ、ああ……」

帰ってきたクロスガードの人達を見て、目を見開いた。

「皆……っ……」

「うそ……」

そこにはついさっきまで生きていたはずの、クロスガード達が血を流して倒れていた。私もアルヴィスも言葉を失ってしまう。

「全部死体です。今回のクロスガードは不作でしたね。力ある者は前回のゲームで消えていったのでしょうか」

不愉快な笑い声が聞こえたかと思えば、そこには人とは思えぬ何かがいた。人の言葉を喋るから、人とは別の種族なのだろう。

「ガイラさんはどこだ!? あの人がポーンに負けるなどありえない!!」

「誰がポーンだけと言いましたかね?」

彼の後ろに別の人間が現れる。

「マジックストーンの中に一つだけハズレがありましてね。運の悪い人間が一人――それがその方であったのでしょう」

その人間から感じる、魔力だとか気配だとか、そう言ったものに思わず気圧されてしまいそうだった。まずい、ここで精神的に負けてしまったら戦えない。大丈夫。私はこの為に強くなったんだから。こんなところで気圧されてたまるか。

「アルヴィス……ユーリ……」

「ガイラさん!!」

アルヴィスと口を揃えて名前を叫んだ。

「不覚であった……!! よもや、この私がゲーム前に失格とは……!!」

「まだ生きてる!! スノウ!!」

「うん!!」

スノウがホーリーARMでガイラさんを回復し始めた。私もそれを手伝う為、ガイラさんに駆け寄る。ハズレを引いて生きているのだから、やっぱりガイラさんは強い。生きていてよかった。

もしここに、アシュラさんがいたら……あの人なら、きっと自らハズレを引きに行って、あいつを倒して帰ってきていたのだろうか。

「さて……合格者は、この七人ですか! 少ない……少ないですね。前回のクロスガードは三十人程いましたか? それに皆、女子供ばかり! これではファントムも楽しめないでしょうなあ」

その女子供にお前達のポーンは負けたんじゃないか。

「楽しませるどころかビビされてやるぜ!! 早くゲーム始めようじゃんか!!」

「まあそうカッカなさらず。今日はあくまで予選、ウォーゲームは明日より行うのです。今日一日だけは……命ある幸運をありがたく思い、お休みください」

「たったの七人……? オイラ達だけでウォーゲーム……ハッキリいってビビってるっス、ギンタ!」

確かに、前回の人数に比べれば圧倒的に少ない。女子供ばかりと言うのも不安になる要素だ。けれど、その女子供達は大人でさえ勝てなかったポーンに勝った。私達にしてみれば大した力のない相手だったんだ。

今更どうこう言っても、この七人でウォーゲームを勝ち進み、彼らに勝利するしかない。皆ちゃんと自分を鍛えてきてる。勝つことを意識して、勝てることを信じて。

今度こそチェスから世界を守る為に。

「ユーリ!?」

自分の両頬を叩いた。気合いが足りない。もっと気合いを入れなきゃ。

「よしっ……頑張ろう」


2014.08.17

back
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -