07
とりあえず近くの市場にやってきた。食材は勿論、ARMなんかも売っている市場で、様々な情報が集まる場所。ARMはこの間別の市場で買ったし、今日は情報収集のみとしよう。
「ヘンテコなARMを持ったガキ共が盗賊に襲われてるのを見かけたぜ」
早速それらしき情報が入った。まさか一発で得られるとは思っていなかっただけに、拍子抜けしてしまう。色々情報を集めれば、どうやら盗賊に襲われ、ARMを奪われたから滝の方へ行ったらしい。
町の外れ、滝のある場所。今の町にいる間、時々修行場としてやってきた場所だ。その滝にやってきたら、見覚えのある男の子と見知らぬ男の子が対峙していた。
「アルヴィス?」
見覚えのある男の子、六年前にクロスガードとして一緒に戦った男の子で、私の一番嫌いな記憶にいる、一番大切な男の子。
見知らぬ男の子はバッボを持っていて、アルヴィスが何をしているのか何となく分かった。恐らく、私がしようとしていたことと同じ。
話し声までは聞こえなくて、アルヴィスが話したことに相手が怒っているのは分かった。それにアルヴィスはARMを発動して、その中に相手が突っ込んでいく。
一つずつ突破していって、最後にはアルヴィスの目の前に到達して、彼の頭に思いきり頭突きをかました。
「え!?」
すると今度はバッボと喧嘩し始めた相手の男の子。
六年前に見たバッボとは少し違うような気がした。何と言うか。邪悪さが無いとでも言えばいいのか。とにかく、殺意だとか悪意だとかそういったものが感じられない。まるで別人とでも言うように。ARMだけど。
二人の話は聞こえないけれど、暫くしてバトルが終わったのか静かになった。男の子は倒れ、頭から血を流すアルヴィスとバッボが残っている。
ずっと間に入っていけなかったけれど、静かになったことで漸く私は声を出せた。
「アルヴィス!」
「……ユーリ?」
六年も会っていなかったら、お互い成長して記憶の中にある姿とは少し異なると思う。確かめるように名前を呼ばれて、私はコクンと頷いた。
私だと気付くと、アルヴィスに今回の事情を聞いた。
バッボを持っていた少年が異世界の人間で、不可抗力でバッボを目覚めさせてしまったらしい。そのバッボを連れてウロウロしているところを盗賊に盗まれかけて、それを助けた代わりにバッボを破壊しようとしたんだとか。
「それにしても、まさかユーリがこんなところにいるなんて思わなかった。アシュラさんと修行の旅をしていたんじゃないのか?」
「その修行が終わって、今は一人旅をしているの。この辺でバッボとそれを持つ少年を見かけたって話を聞いて探し出そうとしていて」
見事目的を果たせたわけだけれど、その目的の人物は体中ボロボロで倒れている。バッボはバッボで私の知っている人格とは違うようで、以前と雰囲気が全く違った。
なんと、バッボが少年の為に自ら壊せと言ったのだ。少年を家来と言うが、信頼のようなものを抱いている節がある。
「ねえ、アルヴィス」
「何だ?」
「以前のような邪悪さが無いし、人格も違うみたい」
「ああ。記憶がないらしい」
「破壊するの、待ってくれない?」
「な……ユーリまでそんなことを……」
「私がこの子達と一緒に行動する。監視も兼ねて一緒にいる」
「しかし、ユーリ……」
アルヴィスは何かを言いかけて、それを飲み込んだ。その代わり小さく溜息をつく。
「ユーリは昔から頑固だったな」
「うん」
「分かった。でもあくまで様子見だ。何かあったらすぐに駆けつける」
「うん。それでいい」
異世界の少年と言うものに、それに懐いたバッボに、ほんの少し興味が出た。バッボと言う存在は危険だけれど、それでも一緒にいたいと思った。
導くわけじゃない。チェスに入ったり、バッボの人格が戻るような気配があれば即座に壊す。
「ユーリ、魔力上がったな」
「そりゃあ、アシュラさんに毎日修行つけてもらってたからね! でも、アルヴィスには敵わないな」
まだ私は弱い。
「元々男女の力の差もあるし、気を落とすことはないさ」
「勿論。まだまだ修行は続けるよ」
「そうか」
じゃあ、とアルヴィスはその場から去ろうとした。そのアルヴィスを呼び止めて、ハンカチを渡す。
「血、出てるから」
頭にあてると一瞬ピクッと反応した。慌ててごめんと謝ると更にアルヴィスに謝られてしまう。
「痛かった?」
「いや、そうじゃなくて…………から」
どんどん声が小さくなっていって、最後の方が聞き取れなくて首を傾げてしまった。
「とりあえずハンカチ使って。ちゃんと止血しなよ」
「ああ。ありがとう。洗って返す」
「別にいいよ」
最後に、アルヴィスは笑って去っていった。その顔は六年前に見た笑顔と同じで、胸の中が温かくなった。
2014.07.14
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