あなたが好きなのです | ナノ

彼女の愛は異常だった。

彼女が愛した男は片手で足りる程の人数だったが、そのどれもが口を揃えて言う。「あの子は少し異常だ」と。本人もそれに気付いていて、だけど隠そうだなんて考えたことは一度も無く、ありのままの自分を愛してくれる人がいつか現れるのだと信じて疑わなかった。

そんな彼女がチェスの兵隊に入ったのは、ありきたりな人生と普通でしかない周りの人間に飽き飽きしていて、彼女自身が愛せる人間がいなくなってしまったからだった。ファントムの言う世界を浄化すると言う行為がどういったものなのか想像できなくもなかったが、それで世界が変わると言うならそれもありだと思ったのだ。

そして入ったチェスの兵隊で、彼女は後にも先にもそれ程愛した人など存在しないであろうと思うくらい愛する人を見つける。それは偶然で、だけど運命だったようにも思えた彼女は彼にアプローチを仕掛けようとするが、そんな彼は自分のことなど見向きもせずただ一人の女を見ていたのだ。

女っ気のないような彼がただ見つめる先にいる女こそ、彼が自分と同等の、それ以上の愛情を与える女だった。勿論彼女はただ指をくわえて見ているわけも無い。幸い女は彼の気持ちには気付いていなかった。ならば先にこちらが行動すれば、彼は自分を見てくれる。そう考えた彼女は早速行動に移した。

四六時中とまでいかなくても彼の様子を出来るだけ監視し、彼の趣味や嗜好などを調べ、それに合うよう自分を作っていくのだ。そして誰よりもずっと自分だけを見て、自分だけを愛してくれるようにする。それが彼女の異常とまで言われる愛情だった。言わば彼女には自分というものが無い。しかしそれでも構わなかった。自分の意思はないのかと言われても、誰かに合わせることこそが自分のあり方なのだと。

監視を続けて分かったことは、紅茶よりコーヒーの方が口に合うと言うことや意外にも甘い物をよく摂取すると言うこと。時々外へ出たりするが基本的には室内での事務的な仕事が多く、体が鈍らないよう何日かに一度は修練の門に入っていること。そして彼の最優先であるファントムと言う絶対的な存在と、なのにも関わらず愛情を向ける女の存在だった。

ファントムまでは許容範囲だった。初めて見た時から彼はずっとファントムに従っていたのだ。しかし、ならばなぜ彼はあんな女に愛情を向けるのか。自分よりも年下で、それでいて無愛想で、そして何より彼の気持ちにさえ気付かない鈍感な娘がなぜ……。生憎彼女に人の心を読むことなどできなかった。それでもあの女と言う存在が彼女にとって邪魔で、目障りで、存在していると言うことが許せなくなっていく。

女さえいなければ、女が存在しなければ、女が生まれて来なければ、女がこの世から消えてくれれば、彼はきっと自分を見てくれる。自分だけを見て、自分だけを愛してくれる。こんな自分でもきっと笑って触れてくれる。そう思ったところで女の存在が消えるわけじゃない。じゃあどうすればいいのか、殺せばいい。女だって人間だ。毒を体内に入れれば死ぬし、水の中で息が出来なければ死ぬ。刃物で刺されれば大量出血で死ぬか、心臓一突きで死ぬ。首を絞めれば呼吸困難で死に、殴ったって死んでしまう。

――あぁそうだ、殺してしまえばいい

女が生まれて来なければ、女が存在しなければ、女がこの世から消えてくれれば――そう願ったのは他でも無い自分だ。ならば自分で行動すればいい。だって自分にはARMと言う武器があるのだし、それを扱う為に沢山修行してきたのだ。やれないことはない。

そうして彼女は女を殺すことを考えていった。来る日も来る日も、彼を愛しながら女を憎む。どういう殺し方がいいか、どういう風に殺せば誰にも気付かれないか、それはまるで遠足に行く子供みたいな感覚で、幼稚的な感情で、それでいて酷く身勝手な思考だった


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