あなたが好きなのです | ナノ

「大分苦戦しているみたいだね」

「はい。せめてあいつが気付かなければ同じ一週間を繰り返すことは無いのですが……」

「あの子は頭が良いし、どうしても気付いちゃうんだろうねえ……最初は面白いなんて思ったけれど飽きてきたし、何よりアオイが可哀想だ」

――それに、君もね

静かな空間に放つ言葉は、僅かに開けた扉の隙間から私の耳にも入って来る。ファントムとペタの会話を聞いて、彼らには既に繰り返されている記憶があるのだと気付いた。私に記憶があっても、何をしても何を考えてもペタに違和感を覚えたのはこのせいだろう。ファントムに関しては興味が無かったから違和感を覚えるどころじゃなかったけれど。

「君が彼女を殺すことで繰り返されるとは言え、あぁも毎回殺されるなんてアオイもウンザリしているだろうね。記憶があれば、の話だけど」

「記憶が無いのがせめてもの救いですよ。あったら正気じゃいられないでしょうから」

確かに正気じゃなかった。ペタの前で殺されることによって、ペタに私と言う存在を深く刻みつけるなんて正気の沙汰じゃない。幸いペタは私に記憶が無いと思っているみたいだから、学習力の無いおバカな子と言う認識しかないとしても、今までの私の行動を客観的に考えればとてもじゃないけど正気になんて思えないわ。

「同じこと繰り返すのも疲れて来たし、このままじゃメルヘヴンの浄化なんてできないし、彼女はどうやったら満足するんだろうね?」

「本人曰く、私が誰のものにもならないこと。もしくは自分だけを見ること、だそうです」

「あぁそれは無理だ」

「はい」

無理……? ファントムが即答するなんて、ペタには誰か大切な人でもいるのだろうか。ペタもまたファントムの言葉に素早く返しているし。それともペタのファントムへの忠誠心のことだろうか。ファントムが自信満々に「それは無理だ」と言うくらい、ペタが彼に忠誠を誓っているのは一目瞭然だ。女の私が男のファントムを羨ましく思う程に。あぁでも、どちらにしたってペタが私を見ることはないと気付いてしまったのは確かで、私はそっと扉を閉じた。


彼らはいつから気付いていたのだろう。私の髪の短さや目の色の変化にも気付いていたのだろうか。彼らが随分と長い間、この繰り返される空間にいることに気付いていたとしたら、私の倍以上のストレスや疲労を感じていたのではないだろうか。原因は私一人にあると言うのに、こんなにも周りに迷惑をかけているなんて気付かなかった。記憶があるなんて気付かなかった。

「ここって……」

気付いたら前にロランと話をした庭に来ていた。誰もいないこの空間は静かで落ち着くのに、気分が悪いのはあんな会話を聞いてしまったからだろうか。

ペタはどれ程見てきたのだろう。全部覚えているのだろうか。私が目の前で殺される光景を、目の前で死んでいく様を。その度にペタの手を煩わせていたのかと思うと、情けなくて泣きたくなってくる。いっそのことそのまま見捨ててもらった方が楽だったかもしれない。

「でもそしたら、ここにもいられなくなっちゃうのか……」

やっぱりペタのいない世界は嫌だなぁ。

私がこんなにペタを好きだなんて思わなかった。ううん、随分と前からそんな予感はしていたけれど、勝手に一人悩んでまでペタを思い浮かべるなんて相当じゃないだろうか。これならあの女にも負けない気がする。でもきっと私はまた殺されてしまうのだろう。だって彼女には他に男の人が……、

「そういえば、あの女はペタに殺されるらしいし繰り返すことなんてできないんじゃ……それなら繰り返しているのはあの男……?」

だとすると、ペタがわざわざ女を殺すことによって男が繰り返す。その際時間を戻すと言うことなら私が生き返るのも理解できる。そして同じ一週間を過ごしていることになる。ただ単に仕事を手伝う女が殺されたくらいでそこまでするとは思えないし、もしかしてペタは私のことが好き、とか……いやいや、まさかそんな。それは自意識過剰ってものでしょう。何より本人が何も言ってないうちから妄想紛いな推測をするのはよくない。

それに、それが事実であれ不実であれ、ペタが私を好きだなんて考えていたら私が冷静な判断が出来なくなってしまう。


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