あなたが好きなのです | ナノ

色んな可能性が出てきて頭の中がこんがらがってきた。全て私の推測でしかないから正しいとは言い切れないし、これを話す相手もいないと言うのは少し厳しい状況だ。となると、ペタの前で殺される作戦が一番有効だろうか。もしくは……あの人を私が殺してしまう、とか。

「眉間に皺が寄っているぞ」

「え……」

ペタに言われて思わず触れてみたけど皺なんて無かった。

「書類に関係無いことを考えているのなら休憩にでもしろ。そんな顔を見せられるこっちの身にもなれ」

「ごめんなさい」

何故私は怒られたのか。

「チェス内で殺しはあんまりしてほしくないのよね?」

「ファントムはそう言っていたな。しかし血の気の多い輩ばかりだ。喧嘩を売っては買い、買っては売りの繰り返しでそれを守ろうとする者など殆どいないだろう」

「チェス内での喧嘩や殺しが嫌っていうのは人を減らしたくないから?」

「それもあるが、ファントムは基本傍に誰かいてほしいと思っているからな。仲間を減らしたくは無いのだろう」

「ふうん」

じゃああの人を殺すのはダメかな。別にファントムのいうことに従うわけじゃないんだけど、後からペタに文句言われるのは嫌だし。でもそんなこと言ってたらこの繰り返しは終わらない。

「誰か嫌いな人間でもいるのか?」

「嫌いな人間はいない。そもそも人にあまり興味無いし。ただ……防衛本能が働いてしまうかもしれないと思って」

「そうか。それなら仕方ないな」

結構あっさり言ってくれるものね。私の記憶が受け継がれた今だって、ペタへの違和感は変わりない。むしろ記憶があるからこそ違和感が増している気がする。私への態度も表情も全部いつも通りと言うか今までと同じなはずなのに、何かを隠されている気がしてならない。その根拠は無いし、何かと言うのも分からないのだけれど。

「自分の身くらい自分で守るんだな」

「はいはい」

そういえば、私が覚えている限りの繰り返された一週間で名前を呼んでもらったことがない気がする。知らないわけじゃあるまいし、いつも書類整理している人間の名前を忘れるわけもない。でも一緒にいる時、会話をしても名前を呼ばれることは無かった。違和感はこれだろうか……否、それは他にある気がする。けれど名前を呼ばれないと言うのも何だか引っ掛かる。でもそれを聞いたところでペタは呼ばないだろうし、呆れられてしまうだろう。

「甘い物が食いたい……」

時々ふとそう呟くけれど、決して私に持って来いだの作ってこいだの言わないし、そもそもただの独り言だろうし、私を見ることは無い。つまり、私はもしかして空気? まるで空気のように思われているの? 書類を手伝っている身としてそれはあんまりだと思うけれど、一度そう思うとそれが離れないのは何故だろう。

「お、お茶でも淹れてこようか……」

「ほう。お前にしては気が利くな」

あ、やっぱり書類整理以外には役に立たないと思われてたのか。

「紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「コーヒー」

「分かった」

「待て」

「え?」

何故引き留められたのか。コーヒーの好みを細かく伝えるつもりなのだろうか。私はそこまでコーヒーの淹れ方知らないし好きに淹れさせてほしいんだけど。それじゃダメなの? ねえ。

「やはり紅茶にしてくれ。お前と同じでいい」

「え……分かった……」

私の予想とは違った言葉が放たれて一瞬固まってしまった。すぐに我に返って部屋を出たけれど、何でコーヒーから紅茶にしたんだろう。気分だ、なんて言われてしまえばそれまでだけれど。

それにしてもこの一週間は今までと違うことばかりが起こる。恐らく殺した張本人であろう人物に出会うし、ロランとも早めに対面を果たし、この間はキャンディスと仲良くなった。そして今日はペタだ。ペタと私の関係なんて今まで通りのはずなのに、どうしてかいつもと違う。ペタが仕事中に飲むのはコーヒーなことくらい知っているけど敢えて聞いた私も私だ。この一週間、私も変だということだろうか。


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