あなたが好きなのです | ナノ

ペタの前で殺されるにしても、記憶が残らない私以外の人には効果が無いのかもしれない。それはペタも例外じゃなくて、繰り返される前と全く同じ様子のペタは見ていて笑ってしまいそうになる。何度も何度も同じ場面を繰り返していると言うのに、私自身ももう飽き飽きしていると言うのに、ペタといる間は幸せさえも感じてしまうから不思議だ。どうせなら一緒にいられるこの一週間を何度も繰り返してしまおうか、と思ってしまう程に。


「次の瞬間にはもう記憶が無くなってしまう人に、私の存在を刻み付ける為にはどうしたらいいと思う?」

「何だ、急に」

「ふと思ったの」

「その人間にとってお前が大切な存在だと思わせればいいんじゃないか? 記憶が無くなる病気でも本当に大切な人間なら僅かでも覚えているものだ」

「それってほんの数パーセントの奇跡を信じろってこと?」

「いや、私ならそんな不確かなものに頼りはしないさ」

つまりはどういうことだろう。

ペタが奇跡なんてものを信じるとは思えないけれど、そうじゃないとしたら彼の言っている意味がよく分からない。

「そもそも人間の内側のことなど本人以外にはどうしようもないことだ。記憶が無くなる人間の為に写真と手紙でも書いておけ」

「それじゃあ意味が無いんだよね」

繰り返されるから手紙なんてものは消えてしまうのだ。書いたところで無意味。いや、でも繰り返された時が一週間の始まりだったとして、その時に手紙を書いておけば次に繰り返された時にそれ以降の日にちなら手紙が残っているんじゃないだろうか……それはあくまでこの繰り返しが全てリセットされていない場合に限るけれど。

「ちょっとだけ試してみる価値はあるかも」

「そうか」

繰り返される日にちはランダム。この繰り返しがARMの仕業だとしたら使用者が設定できるわけでは無い、ということになる。次に一週間の初めが来るのはいつになるかは分からないけれど、ペタの前で殺されることを続けているうちにやってくるだろう。ペタには悪いけど女と女の戦いは思ったよりも惨いものだ。


「本当に、何だか変なの!」

「そうは言ってもね……」

「ビショップのあの子に会うと声をかけようとするんだけど、用事があるわけじゃないし何よりそこまで仲良くないのよ。それなのに声をかけようとするなんて変じゃない」

「僕も同じです。何故だか彼女とは随分と前から仲が良かった気がするんです……」

入り辛い。これって多分私の話だよね。声からして中にいるのはキャンディスさんとロランか。私も前までは謎の違和感に悩まされたな。今は何度も繰り返される記憶が頭の中でぐるぐるしてるけど。どっちの方が楽だったんだろう、と時々思う。きっと今の方が苦しいんだろう。だけど私はこっちでいい。思い出せないのは気持ち悪いから。

「でも実際君達は彼女とあまり会話を交わしていないだろう?」

「そうなのよね……」

「どうしてそう思うのか僕にも分からなくて……」

「もしかしたら夢の中で会っているのかもしれないね」

「まさか」

話しは終わっただろうか。そろそろ入ってもいいだろうか。このまま待っていても時間が勿体無いし話が終わってなくても入らせてもらおう。


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