早く言わなきゃ。早くしなきゃ。気付いてもらえない。言わせてもらえない。見てもらえない。
「あのね、ペタ」
「悪いが仕事中は話しかけるな」
「ごめん」
また今日も言えなかった。どんなに好きでも言わなきゃ分かってもらえないし、言わなきゃ私なんて見てもらえないのに。でも分かってる。例え私が告白をしようとも、ペタはそれを受けることは無いし、仮に受けたとしてもペタの最優先はファントムだ。
もう何度目だっけ。ペタに告白しようとして失敗したのは。好きになったのは最近のはずなのに、随分と前から告白に失敗してきたような気がする。何度も、何度も。だからこんなに焦ってしまうのかな。早くしなきゃ、って。早く告白して、少しでも見てもらいたくて、私と言う存在を知ってほしくて。でも、いつだって私の世界にはペタしかいないのに、ペタの世界にはファントムしかいないのよね。
「おい、あまり静かだと落ち着かない」
どうしろと。
いくら私がペタを好きで好きで仕方なくても、静かにしろと言われて静かにしたのに、静かだと落ち着かないなんて言われたって何も出来やしないよ。騒いだら騒いだで怒られるのは目に見えていると言うのに。
「私の仕事は終わったからトイレ行ってくる」
「待て」
「え?」
「気持ち悪いのか?」
「いや、違うけど」
「そうか。ならいい」
「うん」
何の話だろうか。私は一言も気持ち悪いなんて言ってないし、特に具合が悪いと言うわけでもない。ペタは私なんて興味無いから例え具合が悪かったとしても心配なんてしないだろうけれど。
「今日のペタは変だな……」
少し顔色が悪かったような……いつものことだけど、いつもより更に。ペタの方が具合悪いんじゃないだろうか。そろそろ過労死してもおかしくないし、出たら休ませよう。
「愛するペタの為だもの。少しくらい怒られても、無理にでも休ませよう」
そう呟いて水を流してから出ようとすると扉が開かない。鍵がかかっているわけでもないのに、何度ノブを回してもガチャガチャと音が鳴るだけで開こうとはしない。軽くペタに声をかけてみても反応は無いし、恐らく声が小さくて届いていないのだろう。
「困ったな……」
そう思っているといきなり水が溢れてきた。逆流してきたのかはたまた水道管の破裂か知らないが、小さな個室に水が溜まるのは思ったよりも速くて扉をドンドンと叩いた。
「何があった!?」
すると扉越しに声が聞こえて、ホッと安心する。扉が開かないこと、水が溢れていることを伝えるとペタは開けようとしてくれたみたいだけど、鍵がかかっていないのに開かないらしく結局私は外に出られないまま。アンダータがあれば問題無いのに、今日に限って持っていないなんて……。
大分水嵩が増してきて、頭が天井に届いてしまった。あと数分でこの水は天井まで上がって、息が持たなくなった私は恐らく死んでしまうのだろう。溺死なんて首吊りの次くらいに嫌いな死に方だ。
「またちゃんと伝えられなかったな……」
水が天井に到達して息を止める。暫くは意識があったのが次第に遠のいていって、体の重みを感じることが無くなっていった。
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