「はあ……」
何だろう。最近夢見が悪い気がする。内容なんて殆ど覚えていないのに悪夢だったことは確かで、眠っている間に疲れが取れた気がしない。むしろ疲れが蓄積されていくようで、溜息も更に重くなる。
「今日何するんだっけ……あ、ペタの書類整理の手伝いだ」
ペタに会えるってだけで幸せなのだから、早く準備して執務室に向かってしまおう。その前に朝ご飯が食べたい。今日は何を食べようか。
「あまり顔をジロジロ見られると集中できないだろ。何か用があるなら口で言え」
「目は口ほどにものを言う、なんて言葉もあるわけだし、視線で私の気持ちが伝わればいいなって思って」
「だから口で言えと言っているだろう」
イライラし始めたペタは眉間の皺を深くさせる。そのままだと皺が残ってしまいそうだから指で伸ばしてあげたら怒られてしまった。そりゃあ恋人でもない女にいきなり触れられたら怒るか。
「何なんだ」
「いや、ただぼぉっとしてただけ」
ペタを見ていると落ち着くようで落ち着かない。胸の中が少し温かくなるのに、不安感があって安定しない。一緒にいられるのが嬉しいのに時間が過ぎるのが早くて物足りない。どうしてだろうって考えたら答えは簡単で、私がペタを好きだからだと思う。他の人や本人にさえ言っていないけれど。
「今日はこの後にARMの調達があるのだろう。それまでに終わらなかったらファントムに土下座して謝れよ」
ペタがファントム大好きなのは知ってるし、それが恋愛感情とかじゃなく尊敬の意味だって言うのも知ってる。だけど例えばペタが誰か見知らぬ女を好きになったとして、その女が優先されることはないのだろう。私も例外ではないはずだ。そう考えると、いくら好きでも伝える気なんて出るはずもなく、だからと言って諦められるわけでもなく、酷く無謀な恋をしてしまったと自分でも思う。
「ARMの調達と言えば、知らない人と一緒らしいんだけどロランってどういう人なの?」
「お前はまだ話して無かったか」
「うん」
書類を眺めながら会話を続けてみれば、ペタは怒った様子も無く答えてくれた。
「チェスにしては温厚な奴だ。下手にビショップやルークよりも大人しいだろう」
「へえ。私もビショップなんだけど、うるさい?」
「さあな」
今までもペタは、私に対しての感情なんて明言してくれたことがない。好きも嫌いもはっきり言ってくれなくて、だけど書類整理を手伝っているからか話を振れば答えてくれる。それすらもファントムの命令でそうした、なんて言われたら私は一体どうするのか。一発殴るくらいのことはしそうだ。
「ペタが大人しく殴られるところなんて想像つかないわ」
「何の話だ」
流石に怒ったようで、大分低い声が放たれた。仕方ない、仕事しよう。この後にARMの調達もあるわけだし。
「あぁでも、ファントムになら大人しく殴られるのかな」
「おい、いい加減にしろ」
「冗談だよ。ペタにだってプライドがあるでしょ」
でもね、例えば私の恋心さえ知っていて、それすらも利用するような真似したら、流石の私も大人しくしていられないと思うの。こればっかりは私も女の子だし。女の子は強くたって繊細なんだから。まぁペタはその辺疎そうだし心配ないかな。
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