あなたが好きなのです | ナノ

パチッと目が覚める。何だか嫌な夢を見ていたような。酷く汗をかいているし、悪夢でも見たのだろうか。それとも気温が暑かったか。布団はそれ程乱れていないし、やっぱり悪夢でも見ていたのだろう。

悪夢と言えば、誰かに話すと正夢にならないんだっけ。そんな噂を耳にしたことがあったけれど、悪夢の内容を覚えていないんじゃ意味が無い。話そうにも話せないわけだ。それに話す相手と言っても特にいないし……。

「そういえば私、ここに仲の良い人っていたっけ……」

もう随分と長くチェスの兵隊にいるような気がするのに、これと言って仲の良い人がいた覚えが無い。いや、そもそもどうして私はチェスの兵隊に入ったんだっけ?

「あ、れ……」

頭の中がぐるぐるとかき混ぜられているみたいにごちゃごちゃしてきた。何だか記憶にない映像が一瞬過るのは私の頭がおかしいのだろうか。

ぶんぶんと頭を振って正常に戻す。情緒不安定なのかもしれない。最近大量の書類整理をしたからきっと疲れているんだ。今日もまた書類整理で、その後はARMの調達。まともに仕事する人がいないからって全部私に押し付けなくてもいいのに。私いつか過労死してしまうんじゃないだろうか。あぁでもそれならペタは今すぐにでも過労死してしまいそう。

つい最近似たようなことを考えた気がするんだけど、デジャビュって奴だろうか。


「今日は随分とゆっくりだったな」

「あ、遅れた?」

「あぁ。まぁほんの数分だ。問題無いだろう」

そう言って書類を渡してくる。いつも通り、ペタがこなす書類の三分の一程度の量だ。半分くらい貰っても構わないんだけど、そんなこと言ったら毎回半分の書類を貰うはめになりそうだから何も言わないでおこう。長時間文字と睨めっこするのは好きな小説でもない限り難しいものだ。

「ねえペタ」

「何だ」

「デジャビュって感じたことある?」

「は?」

いつも通り資料に目を通しながら書類を纏めていくと、何だか静かな空間が嫌になって話しかけた。突然話題を振られてペタは少し驚いている。私ももっと別の話題は無かったかと言ってから後悔した。

「今朝、ちょっとデジャビュを感じたの」

「見たことある、とかそう言ったものか」

「うん。私の場合は、一度も思ったこと無いはずなのに前にも同じことを思ったような気がして」

「気のせいだろう」

「そうだよね」

気のせい。でも何でかはっきりと同じことを思った、なんて感じたから少し違和感を覚える。

違和感と言えば、今日はやけにペタを見ると違和感を覚えて仕方ない。いつもは静かなのに、今日は少し落ち着きが無いというか……ソワソワしているというか。何か用事でもあるのだろうか。時間を気にしているわけでは無いから違うのかもしれない。何にせよ私にペタの考えていることなんて分かるはずも無くて、とにかく仕事に集中することにした。


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