スッキリしたところでペタに告白しに行こうか。本来私の目的はそれなわけだし、それをしなければこの問題は片付かない。恐らくまた彼女が現れて、今度こそバトル展開にでもなればこっちのものだ。
「ペタ、いる?」
扉をノックして声をかけても、いつもは聞こえてくる返事が無くて首を傾げた。もう一度声をかけてから遠慮がちに扉を開ければ、執務室が惨劇の場になっていた。
「これは予想外だった」
「普通は返事をするまで入らないものだろう」
返り血をタオルで拭きながらスイクルデスをARMに戻したペタは、何か用か、と言う視線を私に投げかけてくる。目は口ほどに物を言う、とは言うけれど口に出さなきゃ伝わらないこともあるんだよ。
「これ、あの女と組んでた……?」
「あぁ。どんなにあいつを殺してもこの男が繰り返すからな。先に男を殺しておけばいいと考えたわけだ」
「何ですぐしなかったの?」
「それは……」
言葉を詰まらせたペタは、暫く間を置くとふいっと顔を逸らされてしまった。
「彼、死んじゃったのね」
声が聞こえてバッと振り返ればあの女が立っている。殺された男を見下ろしながら、呟くように言葉を放った。
「私はペタが好きよ。ペタの為なら何だって出来る。ペタの趣味嗜好から睡眠時間、一日の業務時間まで何でも知ってる。だからこの世で一番ペタを理解しているのは私なの」
人は誰かを愛すると言うことを拗らせるとこうなるのか……大丈夫だと思うけど気を付けておこう。なんて思っていたら何度も刺された長刀のようなものを向けられた。恐らく彼女のウェポンARMだろう。可愛らしい容姿にあまりにも似合わないそれは、ファンタジー或いは幻想的とさえ思えてくる。
「でもきっと、この世で一番私を理解していて、私を愛してくれていたのは彼だったんだと思う」
その言葉に納得した。そうだ。そうでなければこの男が彼女の殺人行為に付き合う義務など無いのだから。男がどういった人物だったのか私には分からないけれど、ここまで付き合ってきたんだ。きっと彼もまた彼女と同じで、異常なまでの愛情を持っていたのだろう。違ったとすれば、愛情表現の方法くらいだろうか。
「もう本当に、これで最後になるわね。私はあなたを殺すわ。そして今度こそ、ペタは誰のものにもならない」
「そうかもしれないね」
「暫くこの部屋は使えないな」
「そうだね。血生臭くて書類整理どころじゃない」
もう生き返られないとなれば、私だって本気を出さないわけにもいかない。もう死ぬのは御免だ。だって今回、まだペタに何も伝えていないんだもの。
ペタは私の気持ちを知っている。何度も何度も好きだと伝えたから、記憶を失ったとしてもそれだけは覚えているはずだ。そう思うくらい、私はペタに好きだと言った。でももう一度、いや何度だって言いたいと思うの。それくらいの我儘は許されるはずだ。
「ペタ、好きだよ」
やっと安心して伝えられる。自分の心を急かすことも無く、言った後に襲う痛みを考えることも無く、ただただ好きと言う感情をそのまま口にする。それだけで胸がいっぱいになるのは、ここまで相当長い月日を費やしたからだろうか。実際に時間は経っていないのに何度も繰り返して、時間にしたら私はもうお婆ちゃんになっているかもしれない。そう考えると私の言葉は相当重みがあるような気がする。
「そうか、もう殺されることは無いんだったな」
「うん」
「もうお前が殺されるところを目の当たりにしなくて済むのだな」
「う、うん? そうだけど……」
はあ、と息を吐いたペタは私を見ると頭に手を置かれる。暫く撫でたりしているかと思えば漸く口を開いた。
「私も好きだ。アオイ」
思わず目を見開いて驚いてしまった。顔を見るなと言わんばかりに頭をグイグイ下に押される。その為の手だったのか、と思いながらチラリとペタの顔を見れば安心したような表情をしていた。
あぁこれは、もしかして運命ってやつなのかな。
まるで仕組まれたように過ぎていく→次
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