彼女が女を殺すことを決意したらしい、と気付いた時、やはり男はそれに協力する。彼女を愛しながら女を殺し、男性の視線を彼女に向けさせるのだ。今までだって何でもしてきたのだから、やれないことはない。いっそ彼女の手を汚さずに、自分が殺してしまってもいい。相手もARM使いだ。それなりに動けるだろうし、それなりに抵抗するかもしれない。その際彼女が傷つけられたり逃げられたり、逆に殺されてしまったら元も子もないのだ。
――その時は俺が殺そう
邪魔なものは排除すればいい。大丈夫だ、何と言っても自分にはとっておきのARMがある。例え彼女が殺されてしまっても問題無い。難点なのは、それを使うと女も蘇ってしまうことだが、それでも男にはどうでもよかった。そしたらまた殺せばいいのだから。
そしてある日のこと、彼女がとうとう動き出す。邪魔な女を排除するべく、人気の無い廊下で一人になったところ前から一突き。吹き出した血の掃除は男の役目だったが、男は目的が達成されたことで胸がいっぱいだった。あぁ、これで彼女の邪魔は無くなった。これで彼女は幸せになれる。そして自分も幸せになれるのだ。そう思っていた。
その数日後、彼女が殺されるまでは。
幸福感から絶望感へ変わった男は決して怒りはしなかった。ただただ悲しみでいっぱいで、気付けばとっておきのARMを手にしていた。その名を口にした瞬間、眩しい光が包み込んだかと思えば一瞬で闇へと変わっていく。そして次の瞬間、男も彼女も、彼女が思いを寄せる男性も、そしてあの憎き女も全てが元通り。そして全てが繰り返されていた。
* * * * *
「アオイはペタが好きなの?」
「うん」
「えー! 絶対ペタよりファントムの方が素敵よ! まぁライバル一人減るのは大歓迎だけど」
そう話すのは、階級は違っても同じ恋する女として仲が良い、ナイトのキャンディスとビショップのアオイだった。アオイはキャンディスを姉のように慕っており、彼女によく恋の相談をしていた。と言うのも、アオイにとってはこれが初めての恋であり、相手に何をしたらいいか、どういう態度でいればいいのか彼女には全くもって分からなかったのだ。
元々表情があまり表に出ないアオイは、思い人に自分の感情が読まれないことが唯一の救いだった。彼女は思い人の仕事を少し手伝っている。もし好きだなんて知られたらそんな繋がりでさえなくなってしまうんじゃないかと不安でいっぱいだった。だからアオイは自分の気持ちを伝えるつもりは無かった。
そしてアオイは彼に愛されたいと思ったことは一度も無く、その理由として彼の最優先はファントムであり、彼が唯一慕う人物だからだ。そんなファントムに自分が敵うはずもなく、烏滸がましくも彼に愛してくれなんて言えるはずもなかった。勿論あちらが愛してくれると言うのなら全力で受け止めるだろう。それは愛された人間が許される特権なのだから。しかしアオイは自分が愛されるなんて思えなかった。
「どうしてペタなの? いつから?」
「いつの間にか好きだったよ。多分理由は、ペタが私をスカウトしたからかな」
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