まるでリセットされているかのよう。どこかで進む道を間違えるとすぐに死んでしまうから、何度も死んで道を覚えて、そしてクリアしていくような感覚。これにクリアと言うものが存在するのかは知らないけれど。
「はぁ……」
何度目か分からない溜息を吐いて、とりあえず支度をした。
「難しいな……」
朝食を食べながらふと呟く。私は果物のジャムを塗ったパンが好きなのだけれど、赤い果実のジャムは正直言って見たくない。かと言って朝にジャムを塗ったパンを食べないのはいつもの力が出ない気がしてならない。チーズを乗せたパンを二つ食べると言う手もあるが、やはりジャムを塗ったパンを食べたい。私の口は既に甘い物を欲している。しかしここには赤い果実のジャムしかない。
「これどうぞ」
「え?」
隣からコト、と渡されたのは橙の果実のジャムだった。人物を見てみればそこには何度も殺された女がいる。僅かに浮かべた笑みが逆に気持ち悪くて、だけどこの状況で反応してしまえば私に記憶があると気付かれてしまう。それだけは何としても避けたい。
「ありがとう」
「いいえ」
しかしなぜジャムを渡してくれたんだろうか。彼女にとって私は殺したい程憎い相手で、ペタへの気持ちに気付けばすぐにでも殺そうと思う相手だと言うのに。
そう思いながらジャムをパンに塗って口に運べば、少し酸味のある甘い味が口いっぱいに広がった。今まで赤い果実のジャムが好きだったけれど、これはこれで美味しい。朝にはサッパリして丁度いいかもしれない。
「ダメよ。殺される相手に会ったらまずは警戒しなきゃ」
「え?」
「もう記憶があるんでしょう? バレバレよ。だから先手を打たせてもらったわ」
あぁこれは、まずいな。確かに不注意だった。毒殺って何回目だっけ。
「アオイ!」
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、ごめんね。返事する余裕なんて微塵も無い。でも聞き覚えのある声で、酷く安心感を覚えた気がした。
「これは無いんじゃないか」
「記憶を消す為よ。でもまさかペタがこの時間、ここにいるとは思わなかったわ」
「もう何度も繰り返してきたんだ、次の展開くらい読める」
「そう。それなら仕方ないわね」
「だからお前もこの後の展開くらい読めるだろう」
「えぇ、勿論。あなたに殺されるなら本望だわ」
涙を流すより、流したそれは2013.08.19
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