「気付いたのか……?」
「ペタ!?」
「あら、部屋に入るならノックくらいしてよね」
「悪いな。そいつに少し用がある」
タイミングが良いのか悪いのか。私に記憶があると気付かれた状態でペタと一緒にいたら早くも殺されてしまうんじゃないだろうか。
「来い」
しかしペタの一言はまるで言霊で縛られているようで、そのたった一言に逆らうこともできずに後ろを着いて行くことになってしまった。
暫く無言が続いたかと思えば、いつもの執務室に辿り着く前にペタが口を開く。立ち話はともかく、歩きながら話すのは珍しい。余程急ぎの用でない限りはしっかり立ち止まると言うのに。
「それで、お前は気付いているのか?」
「何に?」
「とぼけるな」
さっきの発言、あのタイミングで出るとは思えないのだろう。何しろ今日はまだ二日目で、私が違和感を覚えるにはまだ少し早い。
「いつからだ」
「ちょっと前くらい」
「なぜ言わなかった」
「信じてもらえないと思った」
「そうか」
そう言うとペタは立ち止まり、私の方を振り返る。真っ直ぐでサラサラな髪が靡いて思わず見惚れていれば彼の低い声が響いた。
「アオイ」
初めて呼ばれたような感覚がした。何度も何度も繰り返してきたのに、その間一度も呼ばれたことが無かった気がする。もう忘れているだけなのかもしれない。だけどそれでも、嬉しくて仕方なかった。
「私は……」
涙でも流してしまいそうな時だ。背中から痛みが走ったかと思えば目の前のペタが目を見開いて、そして次に目の前が赤く染まっていく。
「やはり私からでもダメなのか」
「ダメ。だってペタは、何も分かってないから」
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