「また違和感……」
いっそもう一度記憶が無くなってしまいたい。けれど鮮明に思い出せてしまうのだから無理な話だろう。そう思いながらベッドの傍に置いたメモを探してみれば見つからず、一週間の初めに戻されると無くなってしまうみたいだ。手紙作戦は失敗。
「モヤモヤする……」
時々目覚めると違和感を覚える。まるで何もしないうちにまた繰り返されたかのよう。日付は確実に繰り返されていて、時間もまたあの一週間の最初に戻されている。だけど前の夢を見なかった。私が殺されなかった。それなのに繰り返されている。
そしてそんな日は決まって、ペタが冷たい。
「いつもより量が多くない?」
「私はその倍近くあるんだが?」
「頑張ります……」
冷たい、と言うよりあたられている気がするけれど、それでもどこかイライラしているようで私も何だか気まずいと思ってしまう。生憎ペタと会話が弾むような話題を持ち合わせてはいないし、そもそもペタにどんな話題を振ればいいのかも分からなかった。無理に何かを話そうとするとそれにイライラしてしまうらしく、結局私は話しかけることができた試しがない。
でも今日は何を思ったか、私は口を開いてしまった。
「ペタ、あのね」
「何だ」
イライラしているのは分かってるの。そんなドスのきいた声で返事をしないで。怖いから。
でも何を言ったらいいかなんて分からなくて、早く何か言わなきゃいけないのに頭の中に言葉が浮かばない。いつもは咄嗟にでも何かしら言えるのに、今日に限ってどうしたのだろう。朝からある違和感のせいか、はたまた殺されるうちに何度か頭を殴られているはずだから馬鹿にでもなってしまったのか。
あぁ早く何か話さなきゃ。
「えっと、あの……」
そうだ、作戦を戻そう。ベッドの傍のメモは無かった。それは恐らくランダムで繰り返される一週間の初めに戻されてしまったから。それなら作戦はペタの目の前で殺されるものに戻した方がいい。女と女の戦いだもの。私と言う存在を強く印象付ける為には仕方ない。
それに頭の中がモヤモヤするのも気持ち悪い。次でスッキリする確証は無いけれど、ペタがイライラしているのも相俟って一緒に仕事するのが気まずい。だから言ってしまおう。
「私、ペタのこと好きなの」
そう言ったら驚いたような表情を浮かべる。こういう顔も何度か見たな。私が好きだって言うといつも驚くからやっぱり彼にとって私は恋愛対象では無いのだろう。いつも好きって言うとすぐに殺されてしまうから答えなんて聞いたことないけれど。
「ずっと好きだよ」
だから貴方の記憶にしっかり刻み付ける為に、
私は今日も貴方の前で殺される* * * * *
「私も好きだ」
もう聞かせることの出来ない人間に言うのは何度目だろうか。
「可哀想に。ペタからの愛を受け取れないなんて」
「そう思うのなら終わりにすればいい」
「ダメよ」
憎むことさえしなくなった相手を殺すのは、何度目だっただろうか。
2013.07.29
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