「また殺すの?」
「そうしなければまたあいつが殺される。お前にな」
「ペタはもう完全に記憶があるのね。そして、あの子への感情もある……」
何度目だろうか。数えることも憂鬱になるくらい、何度も目の前で殺される姿を見てきた。覚えているのは目の前の女の半分にも満たないかもしれないが、いつからか違和感が記憶に変わったのは随分と前の話だ。
「どうして私じゃダメなの?」
「さあな。運が無かったんじゃないか?」
殺したら殺される。そして繰り返される。この無限ループのような状態は生きながら地獄で永遠に過ごすのと同じようだと思った。殺さずに見守ったこともあったが結局あいつは殺される。私が自分の感情を出さないようにしてもあいつ自身が自分の感情に気付いてしまう。どう足掻いても殺される運命にあると言うのなら、また私が殺してもいいだろう。
「ダメだよ。それじゃあダメ。だってそんなんじゃあ諦めきれないもの。私はまだあの子が憎い。殺したい。あの子さえいなくなれば、ううん……」
自分の言葉に自分で首を振ると、間を空けてから続きを口にした。
「他の誰かのものにならなければ満足できるの」
「生憎私があいつを好きにならなくても、他の誰かのものにならなくても変わりはしないさ。どんなに記憶を消してもアオイは私に好意を見せてくるからな」
「だから殺すの。変わらないよ。私があの子を殺して、あなたが私を殺して、また繰り返し」
――それでいいなら、殺して
そう言った女は少し笑みを浮かべる。まるで、殺されようとも私と関わったことが嬉しいと言っているようだ。正気の沙汰では無い。むしろ正気だったらこんなことにはなっていなかっただろう。
「殺さないの?」
「殺す。しかし一つ聞きたい」
「なに?」
「結局貴様は私に何をしてほしいんだ?」
誰かのものにならない、と答えるのだろう。そう思っていた。
「できることならペタに見てもらいたい。そして好きになってもらって、恋人になって、ファントムが浄化した世界で幸せに暮らすの。でもそんな夢を見ても、あなたは私を見ないでしょう?」
「そうだな。無理な話だ」
「ねえペタ。女の子はね、好きな人の為なら頑張れるのよ。例え自分が死んでも、例え何度酷い目に遭っても、例え何度同じ日を繰り返しても、強くあり続けるの。足手纏いにはなりたくないから」
「それがどうした」
私が問えばふっと笑う。普通に笑えば幸せになれそうなものを、いつも意思の無い目をしているから不気味だ。
「私ね、ペタがちゃんとあの子のこと理解しないうちは続けるよ。お互いに理解できない状態じゃあ終わらない。そして理解させない。何度も何度も邪魔をしてあげるから、私を見てね」
「ふざけろ」
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