「ここで会うのはどれくらい振りかしら」
「へ……?」
思わず間抜けな声が出てしまった。厨房のドアを開けた瞬間、あの人がそこに立っていてまるで私を待っていたかのようにしていたから。
「その目を見るのもどれくらいかしら」
「あの……」
「どうせもう感付いているのでしょう? 自分の中で感じる違和感は何か、と」
もしかしてまだ、私に記憶があるって気付いていない……? それならこの人を揺さぶれるかもしれない。
「気付いちゃダメよ」
「は?」
「あぁでも、あなたはそんな風に言われると逆のことをしてしまうわね……今までもそうだったから」
「何を言って……」
ダメだ。本気で分からなくなってきた。どこまで気付いているの? それとも本当に気付いていないの?
ここで逃げればよかったのに、相手がARMを発動したから思わず私も発動してしまった。相手は長刀のようなものを持ち、こちらは槍のようなものを持つ。長刀には見覚えがあった。何度も貫かれたり、切られたりしたものだ。それ以外にハンマーのようなものも持っているはず。
「そうやってARMを発動したこともあったわね。最近は不意打ちばかりしていたからそんなことなかったけれど。大体一発で死んでくれたし」
「さっきから何を言ってるのか分からない」
「私があなたを殺した回数、224回」
まさか……全部覚えているって言うの? 繰り返したこの世界のことを全部? 私だって記憶が残るようになってからのことも初めの方はあやふやだ。何度も殺され続けてきて覚えているのも面倒になってくるくらいだし、何より全部覚えていたら頭がどうかしてしまいそうだった。
「あなたが私を殺した回数、112回」
今だって違和感と今までの記憶で頭の中がごちゃごちゃしていて、混ざり合わないようで混ざり合っているような意味が分からない状態だ。それなのに彼女は全部覚えていると言うのだろうか。
「今回はどちらかしら」
厨房でバトルはいけないな。衛生的な意味でも食欲的な意味でも。あぁでも、これで終わるのかな。
「どうやって処理しよう……」
目の前に広がる赤と、切断された肉塊があまりに酷くて、酷過ぎて吐き気すらこない。こんなんじゃまともにお茶も淹れられないな。ペタにはなんて言おうか。あれ、でも前にもこんなことがあったような気が……そう言えばこの女も私が殺した回数を覚えていた……つまり、
「まだ終わらねえよ」
女を倒したことで油断したのか、後ろの気配に気付けなかった。もっと神経を研ぎ澄ましていたらこの殺気くらい簡単に気付けただろうに。なんて思いながら頭に与えられた衝撃に意識を手離した。
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